特集記事

理路雑然 /-10-

2014年07月05日(土)

特集記事

理路雑然

 財務省のホームページはなかなか面白い。「日本の財政を考える」のページに「日本の財政関係資料」というのがある。その中に新聞などによく掲載される「公債残高の累増」のグラフが載っている。以下、言葉の定義が面倒なので国債(借金)と書くが、赤字国債(特例公債)と建設国債(4条公債)、復興国債(復興債)の積み上げ棒グラフだ。年を追うごとに国債残高が増えていく様子と内訳の推移が分かる。

  しかし、ホームページの内容はともかく、グラフの作り方が気になる。見て頂くと分かるが、下から赤字国債(多くは社会保障費)、上に建設国債、復興国債の順だ。一見、建設国債が借金を増やしているように錯覚する。この順番を逆にすると、建設国債残高は長い間ほとんど増えていないことが分かる。これは毎年の建設国債発行と償還がうまくいっている証拠だ。一方赤字国債は急激に積み増して膨れあがっている。グラフの作り方に財務省の悩みと思惑を感じる。

  グラフは視覚的に数字を理解させる有効な手段だ。しかしその表示方法で随分違うイメージとなる。テレビや新聞に表示されるグラフは意図的に「縦横比」「色」「足切り」「実数か%か」などの手法が使われるので、注意した方がいい。参考までに後のページで同じデータを使ってグラフを作ってみた。

  これまで長い間、公共事業が国債累積の原因のように喧伝され、公共事業全てが無駄遣い扱いされてきた。無責任な政治家は選挙に利用した。濡れ衣で国民を欺く悪意ある行為だが、繰り返されることで世論は洗脳され信じた。そして安易に公共事業費は削減されてきた。

  昨今は、東日本大震災や老朽インフラの事故、大雨災害をへて、少し風向きが変わったようだが、それでも予算編成の時は「ばらまき」などという見識のない声も聞く。

  財務省ホームページは、国債発行累積780兆円は、国の税収16年分に相当し、国民一人あたり615万円、4人家族では2459万円の借金を抱えていることになると説明している。

  また「我が国財政を家計に例えたら」として解説している。ここで分からないのは、国債費(利払い)を家庭ではローン元利払いに例えていることだ。家庭のローン元利払いは家や土地など資産の獲得でもある。ローン返済が済めば完全に財産であり、売って現金化することも出来る。同様に国の借金(建設国債)も国有財産の形成といえる。もちろん作られた資産である道路や橋を売ることは出来ないし、分類上は国有財産にインフラの評価資産は含まれていない。しかし意味合いとしては国の財産だ。

  一方社会保障などに使われる赤字国債は、そういう意味での財産は形成しない。人も国の財産と言えなくもないが、赤字国債は消費に近い。同じ借金の使い道でも残るか残らないかの違いがある。

  またマスコミでいわれる「国民一人あたりの借金」という表現も疑問を感じる。国債は債権であり、借りた分と同価の価値をもつ。国債を発行したのは国民ではなく政府だ。国民の借金ではない。政府に金を貸したのは金融機関や広い意味での国民であり、その証書が国債だ。ということは国の借金と同額の財産(債権)を国民が持っていることになる。

  もちろん、政府はいつか償還(返済)しなくてはならないが、まとめて償還するわけではないので、返済(利息共)と発行がうまく循環すれば紙切れになることはない。

  建設国債と赤字国債が、性格が違うにも関わらず同じ国債(借金)としてひとまとめに扱われていることに疑問を感じる。

  とはいえ、税収が伸びず国債利払いが増え続けると、他の予算がだんだん窮屈になる。償還が円滑な建設国債もその皺寄せを受ける。そのため、積み上がっていく赤字国債に対し税収増のための施策、財政健全化、社会保障改革、税制改革や消費税増税が図られている。

  ところで「倹約のパラドックス」というのがある。パラドックスとは、一見正しく見えることが逆の結果をもたらすことだ。不景気で給料が下がったので、これから倹約するという考えは、出費をおさえ経済状況を改善するという意味で当然と思われる。ところがこの倹約という行為が、逆に給与を引き下げることになるという逆説だ。

  理屈はこうだ。社会全体が倹約することは消費全般を抑える。消費が落ちることは商品やサービスの売り上げを減少させる。すると企業は業績不振となり、更に人件費を削減し、あるいは解雇する。結果としてまた給料が下がり、より倹約せざるを得ない。より安い物を求めるのも同様だ。日本経済を悩ましてきたデフレスパイラルの構造だ。

  このように個々(ミクロ)のレベルでは正しい判断が、全体(マクロ)では逆の結果をもたらす。古くから美徳とされてきた倹約は悪循環の原因になる。逆に国民と社会全体が借金を増やしながら過大な消費を続ければ、スーパーインフレとバブル崩壊につながる危険がある。インフレとデフレ、好景気と不景気の関係は相当に難しい。

  そう考えると、建設国債も赤字国債も景気対策としては大きな効果がある。なぜなら社会全体の消費を下げないことは理論的に正しくても、個々人にとってはふところ事情(限界)があり、将来のことも考え消費に慎重になるのは当然だからだ。しかし政府は、個々人や企業が出来ないことをやることができる。

  特に建設国債の使い道は消費の意味合いだけではない。作られる公共インフラは産業や生活の効率を高めるからだ。有料道路は別として、橋も港も道路も基本的に無料だ。国民は無料でそれを享受している。それらを有料にした時の料金全額を、国民や企業は受け取っているのと同じ事だ。赤字国債が単純な税の払い戻しであるのと比べ、建設国債は設備投資的な性格をもつ。投資は利益を生むし税収増につながる。また利便性や防災など安全安心な国を作る。だから建設国債は昔から長期の償還(将来へのツケ)が認められてきた。そんな理解が社会全般に不足していると感じる。

  「自分たちに都合良くそんなこと言うんでしょ」と言われるが違う。大げさに言うと、政権が変わり今まさに進められている経済・財政・産業政策と国土強靱化政策の議論の基本箇所だ。

  財務省ホームページは面白い。他にもなるほどと思うデータが多い。普通の人向けにわかりやすいよう努力しているのが分かる。防衛省、国交省、厚労省、文科省などいろいろホームーページがある。のぞくと新聞やテレビ、インターネット記事より面白いかも知れない、きっと。


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