理路雑然 /-107-
2018年04月14日(土)
特集記事
理路雑然
落語が面白くて随分聞いた。古典落語と言われる分野だが、今の時代ではひんしゅくをかう話が多い。泥棒、人殺し、心中、女郎、ブス、妾、馬鹿、間男、酔っ払いなどが登場し、放送禁止用語も飛び交う。現代の不寛容社会では、特に女性が眉をひそめる話ばかりだ。しかし社会の底辺にいた人たちはそれを笑い飛ばすエネルギーを持っていた。さてこれから先、道徳的で潔癖な現代に通じるのか、古典落語は生き残ることが出来るのだろうか
昔の本だが永六輔の「芸人その世界」には落語家や歌舞伎役者、歌手、政治家などの破天荒な行動や言葉が集められている。芸に生きる者の貧しい生い立ち、無教養、貧困、舞台の華やかさと漂う陰の悲しさ。芸のためなら人間であることを捨てる別世界。人から笑われ見下される一方で引きつける不思議な存在。遡れば歌舞伎の原点とされる出雲阿国にたどり着くそうだ
現在の芸能界はそんな闇が消えた。そんじょそこらにいる人間ばかりだ。明るく健康的で常識的だ。鍛えられた音楽や踊りの世界は別だが、多くは芸もなく白痴的にテレビの画面を騒々しく埋め尽くしている。きっと社会も常識的で普通の人間を求めているのだろう。だから、不倫だ離婚だ法律違反だと週刊誌やネットで叩かれる。それをまたテレビ芸人がネタとして講釈をたれる
昔の芸人はそれは芸の肥やしと開き直っていたし皆もそう思って楽しんでいた。もともと別世界の非常識な存在だと割り切っていた。そのような昔の芸人の姿が今はいとおしく思える。