施工時期の平準化 /公共事業の〝慣習〟打破へ
2021年01月01日(金)
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「予算単年度主義」を順守するあまり、工期末を3月とする公共事業が依然として多くを占めている。財政法では、繰り越しや国庫債務負担行為といった単年度主義の原則を緩和する制度を認めているものの、公共事業の発注量には、年度末と年度当初に厳然とした〝山と谷〟が存在する。2019年6月に成立した改正品確法では、国土交通省がそれ以前にも進めてきた施工時期の平準化に法的な根拠を与えるため、平準化を発注者の責務と明確に位置付けた。国交省が進めてきた施工時期の平準化の取り組みを振り返るとともに、今後の動きを展望する。
生産性向上、働き方改革に効果
公共工事の受注者に年度当初の閑散期、年度末の繁忙期が生じる現状は、建設業にさまざまな弊害をもたらしている。繁忙期である3月と閑散期である4~6月の繁閑の差は、余剰人員の発生や建設機械の不稼働といった企業経営を左右する問題を生み、重層下請けの改善、建設機械の自社保有を妨げている。年度末の繁忙は、現場の長時間労働にも直結する。
ただ、翻って考えれば、施工時期の平準化が進めば、建設業にもたらされる効果は極めて大きいということにもなる。4~6月の労働力・建設機械・資材の稼働率が向上すれば、各企業の生産性は飛躍的に向上する。繁忙期の分散は、時間外労働の上限規制の適用を控える建設業の働き方改革に大きな効果をもたらす。発注者にとっても、職員の働き方改革、発注時期の集中が引き起こす入札不調の発生防止など、メリットは大きい。
人口規模で取り組みに温度差
平準化が建設産業にもたらす効果は明らかではあるものの、発注者側の取り組みは道半ばだ。国交省・総務省・財務省が行った入札契約適正化法に基づく実施状況調査(18年度実績)によると、通常であれば単年度で実施できる工期1年未満の工事に債務負担行為を設定したことのある自治体は、都道府県・政令市で82・1%だったが、人口10万人以上の市区は37・0%、人口10万人未満の市区町村で19・9%と、自治体の規模によって大きな差が出た=グラフ参照=。
2018年度の地域平準化率(年間平均の月別の工事件数を「1」とした場合の4~6月の稼働工事件数の割合)を見ると、地域によっても施工時期の偏りには差が出ている。
長崎県全体の平準化率は0・56で、全国平均の0・65を下回っている。県内自治体の状況をみると、最も高いのが壱岐市の0・71。次いで県(0・65)、対馬市(0・62)と続く。一方、最も低かったのは、小値賀町の0・08だった。
平準化は一つの発注者だけが取り組んでもその効果は限定的。地域の発注者が連携して取り組み、平準化が地域全体に広がると、生産性向上や働き方改革により大きな効果をもたらすことになる。
市区町村への働き掛けを強化 国交省は、施工時期の平準化を加速するためのロードマップ=図=をまとめ、特に平準化が進んでいない市区町村への働き掛けを強めている。
20年4月の入札契約適正化法に基づく実施状況調査の結果公表を皮切りとして、対応の遅れている市区町村への個別のヒアリングや個別のフォローアップを進めている。
昨年8月からは、都道府県公共工事契約業務連絡協議会を活用し、市区町村に対する指導を強化。入札契約実施状況調査の結果を都道府県別に整理し、全国的な水準よりも取り組みが遅れている市区町村に改善を求めている。
9月には、2021年度の予算編成で債務負担行為を積極的に活用するよう、警察庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省の6省庁を通じて都道府県・市区町村に要請。土木部局以外で公共事業費を計上する自治体の事業部局に対し、所管省庁から施工時期の平準化を働き掛けた。21年度予算編成の終了後には、債務負担の活用状況のフォローアップも行う。 平準化算定ツールを配布
2020年度の入札契約実施状況調査では、全ての都道府県・市区町村に施工時期の平準化の実施状況を自動算出できる「統一フォーマット」を配布。このフォーマットを活用して月別の平準化率や発注量を報告するよう求めた。算出作業の負担を軽減することで、市区町村には予定価格130万~500万円の小規模工事も含めて平準化の実施状況を回答するよう求めている。
このフォーマットを活用すると、▽月別平準化率▽月別発注量▽月別累積発注率▽工期・契約時期一覧―などのグラフ化もできるため、自治体は年間の工事発注計画を効率的に検討することもできるという。
国交省は、21年度以降も実施状況の見える化や取り組みの遅れている自治体の底上げにより、施工時期の平準化を推進する。施工時期の平準化は、公共工事の発注者が認識しつつも、「予算単年度主義」などを理由に解消の糸口を見い出せていなかった長年の課題だ。
今、高齢層の大量退職や時間外労働の上限規制を控える建設産業は、限られた労働力を最大限に生かすことが求められている。公共工事の発注者には、建設産業が抱えるこれらの課題を理解し、施工時期の平準化を積極的に進めてほしい。