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【特別企画】Special interview /県土木部長 奥田秀樹氏「安全で安心して暮らせる県土づくりを」

2020年08月21日(金)

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人物

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 特別警報が発表された7月豪雨直後のインタビュー。「長崎は、平地が少ない厳しい地理条件。まずは県民の皆様が安全で安心して暮らせる県土づくりを着実に進めたい」との言葉は、前任の国土交通省仙台国道事務所長時代に、震災復興の仕上げの時期に襲った巨大台風による宮城県の被害を目の当たりにしたからこその説得力がある。県土木部として、どのような取り組みを進めようとしているのか、幅広い視点から聞いた。


 ―まず就任の抱負を

  「新幹線の開業控え、長崎県全体が〝次の100年〟に向かって大きく飛躍しようとしている。先を見据えた県土の在り方を県民と共に考え、次の世代が夢と希望を持って暮らすための基盤となるインフラ整備や、ハード・ソフトが連携した県土づくりを推進したい」 


―本年度の取り組みは 

 「直轄事業は昨年度比7%増の243億円の配分をいただき、補助・交付金も、市町を含めて昨年度費6%増となる846億円の当初内示をいただいた。個別事業を見ると、西九州自動車道の大幅な予算増額のほか、東彼杵道路で計画段階評価に向けた調査を開始、長崎港松が枝地区旅客ターミナル整備事業が直轄で新規事業化されるなど、観光・産業の発展につながる事業が進む。一方、防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策予算措置は今年度までとなっており、来年度の予算削減を危惧している。長崎を含め、全国的に災害のリスクが高まっていることから、来年度以降も引き続き、防災・減災対策に必要な予算を確保できるよう、7月14日には、関係機関へ要望活動を行ったところであり、今後も機会あるごとに要望していく予定」 


―建設業の働き方改革について 

 「建設業は、他産業と比べて労働時間が長く、休日が少ないのが課題。労働者の健康確保やワークライフバランスの改善、将来の担い手を確保するためにも、まずはしっかり休日を確保することを含めた〝より働きやすい職場環境づくり〟を進める必要があると考えている。県としては、2015年度から週休2日の施工工事に取り組み、昨年9月からは、県内41の発注機関と連携し、毎月第2土日を一斉に現場閉所とする週休2日拡大キャンペーン『きらきら2連休』を実施。受注者アンケートでも8割の賛同を得たことから、本年度も継続する。これまで1000万円以上の工事で行っていた受注者希望型の週休2日工事を、本年度からすべての工事で行う(災害や短期間工事を除く)ことにした。ここでは4週8休を基本とし、最低でも4週5休の確保を施工条件にするとともに、当初設計段階で4週8休の補正積算を行うことで、受注者が取り組みやすい環境を整えたつもりだ」 


―働き方改革の実現にはICTの活用が重要になる 

 「県では『ICT活用工事の試行要領』を策定し、17年度から土工で試行工事に着手。併せて、16年度からセミナーや現場見学会を実施して、県内でのICT工事の普及促進に努めている。さらに、昨年10月には、ICT活用工事の対象土量を全国に先駆けて1000立方㍍に拡大するなど、発注者として、建設業の働き方改革を加速化させている」


  「ウェアラブルカメラの活用も検討中だ。現場作業者が装着することで、現場と事務所をリアルタイムで情報共有、クラウドを活用した写真の自動保存などで、これまで現場作業が終わってから事務所に帰って行っていた資料整理などを、事務職員がシェアし現場と並行して作業できる。また、若手現場職員のカメラ映像を、経験豊富な職員が共有し、離れた場所からアドバイスしてスキルアップにつなげることもできるなど、若手や女性も活躍しやすい環境の構築を期待している。奇しくも新型コロナウイルスの影響で、リモートによる打ち合わせや現場の立会などが求められている。この機会を生かして建設業の働き方を変えていきたい。これらの新たな施策は、本年度しっかり検討して来年度以降の取り組みにつなげたい。ただ、行政主導だけでなく、県内に集積しつつある情報産業と連携するなどして、最新のICT技術の活用を民間レベルで横展開されていくことも期待している」


 ―新型コロナウイルスの対応と今後 

 「国では、社会の安定維持に必要な公物管理・公共工事について、緊急事態宣言下でも事業継続を求めている。県でも入札関係手続を昨年同様に実施。3月までの発注分と合せ、ことし4月・5月の手持ち工事量は、昨年を上回る規模を確保している。予算も昨年度より多く確保したことから、上半期の発注率8割の目標を掲げ早期執行を図っていく。コロナの影響で景気が落ち込む中、建設産業が果たす役割は非常に大きい。県の経済をしっかり下支えしていきたい」


  「政府の〝骨太の方針〟では、コロナを踏まえ東京一極集中から多角連携型の国づくりへの転換を掲げた。地方都市の活性化に向けた環境整備が大事になる。高規格幹線道路はじめ人流・物流ネットワークの構築や、コンパクト+ネットワークのまちづくりなど、県としても必要な予算を確保し、着実に整備する。民間建築については、海外に頼っている資材の輸入が滞ったこともあったが、今のところ急激に落ち込んでいるとまでは聞いていない。ただ投資マインドの冷え込みが心配だ。県としては、市町が実施しているリフォーム事業と連携しながら、〝子供を産み育てやすい住環境形成〟のためのリフォームなどを推進することで、地場建設事業者を支援していきたい」 


―担い手の確保・育成に向けた取り組み 

 「コロナ禍で、これから社会に出る若い方々は不安を感じていると思う。このような状況下でも、建設業はしっかり雇用の受け皿としてあることを示せるよう、本年度も土木部として、県建設産業団体連合会に対しハローワークへの早期求人申し込みを要請した。若い人たちの不安を少しでも解消できるよう、県営住宅や民間賃貸住宅の空家を低廉な家賃の社宅として活用できる『ナガサキSTARTハウスプロジェクト』も立ち上げた。さらに、建設業の魅力を紹介するPR映像の制作も進めている。これらの取り組みで、若い世代の県内就職に繋げたい」 


―これまで携わった仕事について 

 「国土交通省の自転車活用推進官時代に、自転車を通じた健康・環境・まちづくりへの寄与などを、さまざまな関係者と意見交換しながら進めてきた。コロナ禍により、首都圏では満員電車に代わる通勤手段として自転車がにわかに脚光を浴びている。自転車利用が習慣になれば健康寿命の延伸にもつながる。長崎県は自転車ユーザーにとって優しくない地形だが、南島原市では島原鉄道跡地の自転車歩行者専用道路としての整備を計画している。島原半島に限らず、天草との連携など県を超えた広域的な視野で、遠方からの受入体制も含めたハード・ソフトの幅広い取り組みにつながれば良いと思う。また観光だけでなく、通勤・通学など日々の暮らしの中で自転車が使いやすい環境づくりも、関係部局と連携して進めていきたい」 


 「ことし3月まで務めた国土交通省の仙台河川国道事務所長時には、東日本大震災から復興の仕上げ段階に至るまでの地元建設業界の貢献を身を持って感じた。そんな中、台風19号が直撃。事務所が管理する阿武隈川本川の越流・決壊は無かったが、支川の氾濫・内水被害は甚大で、多くの方々が〝昨日までの当たり前の暮らし〟を一気に失われた。皆さん口々に『これまで経験したことが無い』雨や被害とおっしゃったが、『何十年も住んでいた中で何もなかったから大丈夫』という事はなく〝災害はいつ来てもおかしくない〟との意識を常に持って備えることが非常に重要だと改めて実感した。想像を絶する被害の中、まさに昼夜を分かたず災害復旧に尽力されたのは、地場の建設業の方々。地域に根付いて活動する建設業がいなければ、2次災害を含めて被害はさらに大きくなり、復旧・復興までの日数も長くなっていただろう。まさに〝地域の守り手〟と言える」


 ―県内建設業者へメッセージを 

 「社会資本の担い手、そして地域の守り手としての自覚と誇りを持っていただきたい。われわれ行政も、一体となって地域のために頑張る。まずは安全安心の確保。何があってもやり遂げたい」


―プロフィール―

奥田秀樹(おくだ・ひでき)

1996年 九州大学大学院工学研究科土木工学専攻修了。同年 建設省入省。2004年 九州地方整備局企画部企画課長、07年 総合政策局総務課長補佐、10年 大分河川国道事務所長、13年 福岡県県土整備部副理事(福岡北九州高速道路公社企画部長)、15年 国土交通省道路局環境安全課企画専門官、17年 道路局参事官付自転車活用推進官、18年 東北地方整備局仙台河川国道事務所長。20年4月から現職。

 横浜に家族を残し単身赴任。通勤手段は自転車。休日は「県道調査を兼ねて」サイクリング。長崎市内の自宅から雲仙温泉まで行った事も。趣味はマラソンで、朝食前のランニングが日課。フルマラソンのベストタイムは3時間18分。「今は3時間半を切るのも難しい」と笑う。兵庫県出身、48歳。




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