【新春対談】平田研副知事・谷村隆三長崎建産連会長 /災害多発・コロナ禍での地域建設業 持続的発展へ革新と伝え継ぐもの
2021年01月04日(月)
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2020年は、自然災害そしてコロナ禍により、建設産業が地域になくてはならない〝エッセンシャル・ワーカー〟として改めて注目を集める年となった。安全・安心な地域の暮らしを支えるには、建設業が地域に根付いて持続的に発展していかなければならない。持続的発展には、最新技術の導入など新たな取り組みが求められる。大きな転換期にある地場建設業について、長崎県の平田研副知事と、長崎県建設産業団体連合会の会長を務める谷村隆三長崎県建設業協会会長に対談してもらった。
「デジタル化加速も現場主義は不可欠」
◆コロナ禍で働き方改革が加速◆
平田 「コロナ禍により、建設業が事業を継続する重要性を再認識した。災害対応、インフラの整備や維持補修など社会の営みにとって大事な現場を、感染拡大防止に努めながら動かし続けている県内の建設業関係者の方々に改めて感謝したい」
谷村 「地域の建設業は、良好な交通アクセスや生活インフラ、情報通信網の整備などに持続的に取り組む重要な役割を担っている。コロナ禍で落ち込む産業が多い中、事業を継続し地域経済を動かす役割を果たした。昨年は記録的な大雨にも見舞われたが、同程度の雨量だった過去の被害状況と比較すると格段に被害は軽減している。これは河川改修や法面保護などのインフラ整備が地道に継続して進められてきた成果ともいえる」
平田 「コロナ禍でリモートワークが進み、大都市から地方に人が流れる動きが起きる可能性がある。だが、住み心地や子育てのしやすさといった、人を惹きつける魅力がその地域になければ人は来ない。条件を整える地道な努力をたゆみなく進めなければ、地域間の競争に生き残れない。安全・安心は、定住・移住促進のために地域が備えるべき条件の一つ。国土強靭化の推進とともに、災害時に建設業が現場で対応する前提となる〝経営基盤の安定〟に必要な公共事業の確保や労務単価・積算の改善など、ベーシックな対応を着々と進めていく」
谷村 「コロナ禍は『働き方改革』を後押しした一面もある。収束したら元の状態に戻るのではなく、新しい働き方が普通になる可能性がある。思わぬことがきっかけで変革期に入ったと言える」
平田 「確かに建設業はこれまでも、i‐Constructionの取り組みを進めてきたが、コロナ禍でデジタル化の動きがさらに加速。新たな取り組みを迫られている。県としても、公共事業の継続方針の下、外部とのテレビ会議用として新たに10回線を確保し、現場との打ち合わせなどに活用。ウェアラブルカメラも5台導入し、遠隔臨場を試行する。今後も、インフラ分野でデジタル技術を活用した安全・安心で豊かな社会の実現を目指し取り組みを展開したいと考えている。この動きに対応しなければ事業活動が継続できない時代になってきている。業界と一緒にデジタル化を加速し、働き方改革につなげたい」
谷村 「人口減・少子化は簡単には止まらない。限られた人員で業務を進めなければいけない状況は今後も続く。最新技術を活用し、少ない人数で効率的に施工する〝生産性向上〟の工法を、中小・零細企業が担当する小規模工事までうまく広がれば効果が上がる」
平田 「生産性の向上は避けられない視点。県では、2017年度から土工でICT活用工事の試行に着手。今年度は、長崎と島原の2地区の建設会社を対象にしたICT現場見学会を開催するなど、認知度向上に努めている。来年度は舗装でもICT活用工事の導入を検討中だ。ウェアラブルカメラではまず、段階確認や材料確認、高所などの現場確認に活用して、業務の効率化につながるのかを検証する」
谷村 「そのような動きは歓迎だが、現場は新技術の導入が目的化してしまうことを危惧している。これまでも情報化により、逆に二重手間や過度の精密化、書類・費用の増加といった問題を経験してきた。リモート化により、実際に現場に行く場合と比べて格段に情報量が少なくなることを心配している。目的の箇所しか確認できず、現場全体の雰囲気や土の色、水の流れなど現場に行ってこそ分かる部分が大切。受発注者がともに現場で立ち会ってお互いに理解を深める〝現場主義〟を求める声は根強くある」
平田 「現場主義は建設業の本質で不可欠なもの。リモート化するから役所の担当者が現場に行かない訳ではない。現場の状況をしっかり把握し、状況に応じて仕事を進めていくことに変わりない」
「エッセンシャルワーカーとしての自覚と誇りを」
◆人材確保へ新たな取り組み◆
谷村 「コロナ禍で有効求人倍率が下がる中でも、建設業は入職者不足の状況にある。また離職者数も多い。最新技術の活用などによる新たな働き方も大事だが、喫緊の課題は処遇改善だ。そこで長崎県建設業協会では『2020↓2024新3K実現へ前進! 実践宣言』を策定。労働基準法の猶予期間中に▽初任給引上げなど給与水準の向上や資格手当の充実▽時間外勤務の大幅な縮減▽有給の年休取得日数、産前産後・育児休暇の拡大▽寮・社宅機能の確保や現場事務所など福利厚生の充実―など8項目の実践を宣言した。策定に当たっては、会員の中から厳しいとの意見も出たが、社会が変わる中、自分たちも変わらなければ人は来ないし、定着もしない」
平田 「厳しい経営環境の中での対応は本当に大変だと思うが、社会の感覚・ニーズは変わっている。他産業と新規入職者の獲得競争をしなければならない状況下では、他の産業と同等の就労環境を、建設業でも実現することが求められる。実践宣言で掲げた項目の実施が望まれる。その実現へ発注者としてもさまざまな配慮をしたい」
「担い手確保・育成に向けてはこれまでも、建設業協会と共同で小中高生を対象に講話や職場体験、重機操作などの活動を行ってきた。さらに今年度は、県内の現場で活躍する若者や女性へのインタビューや施工状況などを撮影したPR動画を制作。さまざまな機会を通して〝目に見える形〟で県内建設業の魅力を発信していきたい。併せて、新規就業者の県内就職を図るため、県営住宅や民間賃貸住宅の空き家を社宅として活用し、低廉な家賃で提供する『ナガサキSTARTハウスプロジェクト』を開始。この3月から入居できるスケジュールで進めている」
谷村 「我々としては特に、子どもが将来なりたい職業や就職先を決める際に大きな影響力を持つと言われている保護者に対して建設業をアピールしていきたい。一方で、再雇用や定年延長などで高齢者も活用していく。作業ロボットやパワーアシストスーツといった最新技術を利用して作業の軽減や労働安全面の環境を整えれば、より多くの人が働き続けられるようになるのではないか。また、先ほど話が出たリモート化では、現場と事務所がリアルタイムで結ばれることで、事務所から現場を補助(アシスト)できるようになり、女性や若者など未経験者や技術系以外の人の活躍の場の広がりが期待できる。現場作業を事務所の職員と分業することで、残業削減や休日確保につなげるなど人材確保と生産性向上が一石二鳥で進むはずだ」
平田 「若者の活用といえば、建設業法改正で21年4月から1級土木施工管理技士の学科試験合格者に付与される〝技士補〟といった制度的な対応も進められている。監理技術者を補佐する形で現場に配置することで、1人の監理技術者が同時に2つの現場を兼務できるようになる。この新しい技術者制度により、世代交代に伴う技術継承や若手技術者の活躍機会・経験の確保にも資するのではないか」
「処遇改善の面からは、国では建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入を進めている。2020年10月末現在、県の建設業許可事業者数の1割弱に当たる419企業が登録。全国平均(13・8%)より下回っていることから、20年10月に、多くの専門工事企業や建設技能者が携わる『総合評価落札方式の建築一式工事』で、事業者登録までの誓約を評価する試行工事を2件公告するなど、システムの活用拡大に向けた登録促進を図っている。来年度以降も、特別簡易型で実施する建築一式工事まで対象を拡大する予定だ」
谷村 「CCUSの目標や理念は充分理解している。しかし、大手―中堅―中小―零細企業、大都市―地方で画一的な対応をしている進め方には疑問も感じる。それぞれの状況にあった対応が必要だ。また、キャリアとスキルは違う。経験だけの評価では無理がある。処遇の改善は、資格や技能、意欲、信頼性、多能性、後輩の指導力、協調性などを総合的に踏まえて行うものではないか」
平田 「私も単純にシステムを導入すれば良いとは思っていない。システムをどう上手く使っていくか考える必要がある。そのためにも、共通のインフラとして業界全体で利用することが必要だ。たとえ最新の技術を導入したとしても、最終的には建設業は人で成り立っている。今後どうすれば働き甲斐があって処遇の良い職場になるかを、関係者が一体となって考え続けていかなければならない」
谷村 「確かに、AIなど最新技術を活用することで、経験の浅い若者などもベテラン並みの技能や技術を発揮できるようになるかもしれないが、最後は〝人〟。これまでの自然災害や疾疫災への対応を通じた〝必要な時は即行動できる体制の維持〟や〝いざという時に力強い役割を果たすという自負心〟、エッセンシャル・ワーカーとしての自覚など、地域建設業の誇り・責任感を伝え継がなければならない」