特集記事

【特別企画】砕砂コンクリート座談会 /幅広い関係者による産学官連携の場を

2021年03月31日(水)

特集記事

人物

全景

原田座長

佐々木准教授

加藤常務

高山専務

山崎主任技師

打設の様子

脱枠後の擁壁

 海砂に代わるコンクリート細骨材の検討を進めてきた県は、昨年6月に『砕砂を用いたコンクリート活用の手引き』を策定。この1月には、細骨材に砕砂を使ったコンクリートを実現場で打設するパイロット工事が行われた。〝検討〟から〝活用〟の段階に入った砕砂コンクリート―。本紙では、その特徴や今後の展開などについて関係者で話し合ってもらうため、手引き作成検討委員会の委員長を務めた原田哲夫長崎大学名誉教授を座長に迎えて座談会を企画した。



=参加者略歴=


・長崎大学名誉教授 原田哲夫氏

  2017年10月長崎大学副学長(環境・施設担当)、20年4月長崎大学名誉教授。土木学会、日本コンクリート工学会、プレストレストコンクリート工学会、日本材料学会、日本学術振興会、日本技術者認定機構、九州地方整備局で委員・役員を歴任。長崎県では、海砂採取に関する有識者会議、代替骨材検討委員会、フライアッシュ利用促進検討委員会の各委員長のほか、入札監視委員会や総合評価落札制度検討委員会の委員長も務めた。





・長崎大学大学院准教授 佐々木謙二氏

 2008年4月(独法)日本学術振興会特別研究員、09年12月長崎大学助教、18年8月長崎大学准教授。『砕砂を用いたコンクリート活用の手引き』の作成検討委員を務めた。現在も、九州地方整備局のコンクリート評価委員会委員のほか、長崎県生コンクリート品質管理監査会議や長崎県コンクリート製品評価会議の副議長として活躍する。





・加藤産業㈱常務取締役 加藤達喜氏

  約15年間長崎市内の建設会社で主に現場管理を担当。2014年加藤産業の生コン事業部本部長、20年8月常務取締役就任。パイロット工事に砕砂配合の生コンクリートを提供。





・㈱亮専務取締役 高山俊彦氏

  1979年の設立以来、専務取締役として建設業に従事。パイロット工事(一般国道251号線道路維持補修)の施工を担当。





・長崎県建設企画課主任技師 山崎康平氏

  2009年長崎県入庁。上五島支所、県北振興局、県庁河川課勤務を経て現職。砕砂を用いたコンクリート活用の手引き(案)作成検討委員会の事務局を務めた。





― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 



原田座長 砕砂コンクリートの活用に当たっては「なぜ手引きが作成されたのか」その背景を理解し、関係者間で共有することが重要。まずは県からの説明を。

山崎 長崎県はコンクリート用細骨材のほとんどを海砂に依存。細骨材の安定供給と水産資源・自然環境の保護の調和の立場から、2000年以降、海砂の採取限度量を制限しており、現在はピーク時(584万立方㍍)の半分以下(240万立方㍍)で推移している。海砂は近い将来に枯渇するような埋蔵量ではないとされているものの、最近は粒度が細かくなり、海砂単独での使用が適さなくなる可能性も出てきた。また、他県では海砂採取が禁止され、長崎県産の需要が高まっており、価格高騰の可能性もある。海砂に頼った流通が将来的に厳しくなることが考えられるため、代替材料を使用したコンクリートの検討を進めてきた。


―20年にわたる背景を踏まえた議論を―


原田 県の「海砂採取限度量に関する検討委員会」では、採取量の制限に併せて、代替骨材の検討を求めてきた。この中で15年に『フライアッシュコンクリートの配合・製造及び施工指針』が、そして今回、砕砂の手引きが策定された。フライアッシュの指針が日本コンクリート工学会で紹介されるなど、長崎県の取り組みは先進的。今回の座談会では、20年以上にわたるこれらの流れを踏まえた議論に期待したい。

山崎 砕石の製造過程で発生する砕石ダストが原料の砕砂は、微粉分量が多く、粒径がいびつで粗いため流動性に影響があるなどとして、良いイメージがないのが実情。今回の手引きでは、海砂と砕砂をブレンドしたり、セメントの内割でフライアッシュを使用することで、従来の生コンと遜色なくなることを説明。さらに、フライアッシュにより、アルカリ骨材反応や塩害に対応し長期的な耐久性も確保できるとしている。

加藤 弊社では、手引きに基づいて150~200バッジもの試験練りをした。その中で、空気量のロスを改善することの大切さを実感。微細な気泡の混和剤の添加など、最も効果的な添加材と砕砂の配合(細骨材の50%)を見つけ出し、良好なワーカビリティの確保を実現した。

高山 今回の製品で実際に施工してみたが、打設はじめ、各種扱いは今までの生コンとほぼ変わらないと現場サイドから報告を受けている。

佐々木 初期欠陥の無い良好な構造物の整備には、生コン打ち込み時の扱いやすさが不可欠。エアロスやスランプロスの改善は重要な視点だ。

山崎 手引書検討の際には、プラントの出荷から30~40分程度で砕砂生コンの空気量がかなり減ることを確認している。パイロット工事が円滑にできたのは配合を工夫した成果だと思う。


―従来品より仕上げが早い―


高山 砕砂生コンでは、従来の生コンより仕上げが早くでき、時間のロスがなくメリットを感じた。あえて課題を挙げると、脱枠後の表面の気泡が若干多かった。

佐々木 気泡は、砕砂生コンの粘性が大きいため表面のエアが抜けにくいことが要因だと思う。土木構造物でそこまで気にする必要はないのではないか。ただ、発注者や施工業者は今後も生コンに対して〝より良いもの〟を求めてくるだろう。混和剤はじめ、各種技術が日進月歩で進んでいるので、より良い製品に向けた研究は継続してほしい。

山崎 構造物の性能が確保できていれば気泡は大きな問題ではない。今後、施工実績が増えていく中で、気泡を減らす工夫をはじめ、砕砂生コンの特性に応じた施工上の改善点が蓄積されるのが理想だ。現在、砕砂生コンの供給体制はどのような状況にあるのか。

加藤 弊社では、砕砂配合生コンでJISを取得。砕砂標準化後、新規で出荷している生コンはすべて砕砂を配合し、フライアッシュを使用した製品に関しては納入書に『環境ラベル(メビウスループ)』を表示している。これまでに施工者からの苦情はない。7月にはフライアッシュのサイロを増設し、より安定した供給体制を整える計画だ。

高山 弊社が施工したのは1月。現在は、その施工データしかない。供給体制が整ったのであれば、今後、さまざまな季節・環境・状況・構造物で施工が進んでほしい。特に夏場の施工での検証は大切だ。

原田 確かに、手引書を作って終わりではなく、今後施工されるデータをしっかり収集しながら、施工上の課題や工夫などを蓄積し、必要に応じて関係者間で議論して手引きの内容などを改善していくPDCAサイクルを回さなければならない。

 砕砂生コンが工事で積極的に活用されるようにするはどうすればよいと思うか。

高山 工事の特記仕様書に砕砂生コンの使用を記載するのはどうか。

山崎 砕砂の手引きに沿った生コンを県内全域で供給できる体制にない現状で、それは難しい。まずは、従来生コンと変わらない性能・施工性であることを、さまざまな機会を通じて発信・周知していきたい。2021年度の県の土木職員研修でも話をしたいと思っている。

佐々木 施工業者が使いたいと思うような製品であることが大前提。仕上げが早くなるなど機能面のメリットをPRするほか、夏場の施工に対する不安を払しょくしなければならない。


―夏場の施工性向上へ配合試験―


加藤 近く、夏場のスランプロスを改善する配合試験を予定している。フライアッシュの大量使用や高性能AE・減水剤の全配合使用などにより、夏場も使い易い砕砂配合の生コンを実現させたい。

 材料としての砕砂についても、複数の生コンプラントに供給できる体制はある。

原田 どうすれば県下全域で砕砂生コンの供給体制(設備投資)が円滑に整えられるだろうか。

佐々木 プラント経営者には、長期的な海砂の動向や、海砂に代わる細骨材としての砕砂について真剣に考え、将来を見据えた〝材料の

多様性〟と〝製造の安定化〟の観点で設備投資を検討してほしい。

加藤 生コン業者にとっては、かなりの設備投資が必要。よほどのメリットや、需要が見込めないと動き難い。

高山 海砂の代わりに砕砂を使うことは、環境問題への対応や水産資源の確保にもつながる。設備投資に対しての補助はないのか。

原田 政策面からのインセンティブとしては、例えば、県の「リサイクル製品等認定制度」の対象化の検討があるのではないか。

佐々木 補助金は、県の産業労働部や県産業振興財団、さらには中小企業庁などに、該当するものがあるかもしれない。

原田 (今回、生コン製造者や建設業まで含めた産学官での横断的な意見交換(座談会)ができたことを指して)横断的な組織の構築は時間がかかるかもしれないが、今夏に砕砂生コンを使用して施工した工事を検証する場は、今秋にも設けてほしい。PDCAサイクルを回していくためにも、継続的に施工データを収集し、改善につなげていかなければならない。

佐々木 行政や学識者以外の関係者に施工者も加わる組織の存在は貴重だ。砕砂コンクリでスタートしつつ、例えば対象をコンクリート構造物全体に拡大するなど、より大きなテーマを掲げることで、一過性のものではなく、先ほど述べた広い関係者による恒常的な産学官連携組織の構築に結び付けてほしい。

山崎 県としても、今回のパイロット工事で終わりだとは考えていない。手引きに示しているデータはあくまで一つの実験結果であり、今後の実工事の蓄積によって更新されていくものと考えている。砕砂コンクリで施工する工事現場や砕砂コンクリ構造物を、長期間、研究フィールドとして提供していく。これらの取り組みを継続する中で、幅広い関係者が検証・検討・情報共有する場の構築に繋げていきたい。

原田 海砂の代替骨材としてコンクリートに砕砂を活用することは、海洋環境の保全や海洋資源の確保など、長崎県として非常に大きなテーマに関係する。この重要性を県全体で認識し、ぜひ組織化を実現してほしい。


TOP