国土交通省事務次官藤田耕三氏に聞く〝2020年の展望〟 /「政策展開の礎つくる1年に」
2020年01月01日(水)
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新しい年2020年が幕を開けた。令和最初の年となった昨年、25年ぶりの建設業法の大改正を含む新・担い手3法が成立した。新・担い手3法は今年から本格的に運用される。関係機関と建設産業界は、大きな変化への対応を迫られる一年になる。一方、近年頻発する大地震や、地球温暖化を背景に激甚化する風水害など自然災害の猛威はとどまることを知らない。今夏の東京五輪後の景気低迷を懸念する声もある。大きな変化が予想される中にあっても、国土交通省の藤田耕三事務次官は「政策展開の礎をつくる1年にしたい」と着実な行政運営への決意を示す。藤田事務次官に今年1年の国土交通行政の展望を聞いた。
「変化の早い時代に的確に対応」
―昨年も日本列島は数々の大規模災害に見舞われました。
「ここ数年、自然災害で毎年のように大規模な被害が発生しているが、特に昨秋の台風19号は、過去に例をみない範囲・規模で被害が生じた。国交省としても、災害発生直後の初動と復旧に全力を尽くした。多くの河川堤防で決壊を招いた台風19号は、防災・減災対策の重要性を社会全体に改めて認識させることになった。こうした社会の意識の変化に対し、何をすべきか。国交省としてもこれからの課題がはっきりした1年になったと感じている」
「社会全体の生産性を高める生産性革命も、さらに前進した1年にもなった。i-Constructionで建設現場への新技術の実装に取り組んだことに加え、都市全体でICTを活用する『スマートシティ』や、自動運転を取り入れた『次世代モビリティ』の導入にも着手した」
「令和2年目となる20年は、激甚化する災害への対応など、昨年改めて浮き彫りになった課題に腰を据えて取り組むとともに、変化の早い今の時代にも的確に対応できる1年としたい。今年は『社会資本整備重点計画』と『交通政策基本計画』の見直しの年にも当たる。その意味でも、顕在化した課題に対して中長期の政策を打ち出す礎となる1年にしていきたい」
「気候変動 社整審で対策議論」
―災害の激甚化と頻発化を引き起こしている要因の一つは気候変動です。昨秋の台風被害も踏まえ、国交省は国民の生活と財産をどう守っていくのでしょうか。
「20年度は、『防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための3か年緊急対策』の最終年度に当たるので、着実に対策を進めることが最も重要。緊急対策を進めつつ、気候変動による外力の増加への対応も十分に考えていく必要がある。昨年11月に社会資本整備審議会に発足させた『気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会』で夏までに気候変動に備えた対策をまとめる」
―今年7月にはいよいよ東京で2度目のオリンピックが開幕します。
「昨年のラグビーワールドカップでも、全国に多くの外国人観光客が訪れた。五輪開催期間の輸送対策や安全対策に万全を期すことに加え、世界的なイベントを契機に多くの外国人観光客に日本の魅力を知ってもらいたい。世界中に日本の良さを発信するモメンタム(弾み)にしたい」
―昨年6月に成立した新・担い手3法は運用の段階に入ります。
「改正建設業法は、今年10月に許可基準の見直しや『著しく短い工期』』の禁止などの規定が施行される。適正に運用できるよう、引き続き業界に周知していきたい。品確法と入札契約適正化法は、昨年10月に閣議決定した品確法基本方針と入契法適正化指針に続き、品確法運用指針の改定作業を進めているところだ。全ての市町村に改正法の理念を理解してもらい、新・担い手3法を定着させていきたい」
「特に施工時期の平準化は、地方自治体によって取り組みに差が大きい。実態調査で平準化の進捗を見える化しつつ、取り組みの進んでいない自治体へのヒアリングなどを通じ、継続的にフォローアップしていく」
「CCUSの普及促進「メリットの理解必要」」
―国交省と建設業界が構築した建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録促進をどのように進め、建設技能者の処遇を改善していきますか。
「若年技能者にキャリアパスと処遇の見通しを示し、技能と経験に見合った賃金の引き上げにつなげるのがCCUS構築の目的。このことは、建設産業全体の価格交渉力も向上させるはず。システム登録を促進するためには、関係者にこうした登録のメリットを十分に理解してもらうことが求められる」
「具体的に言えば、CCUSが業界全体に普及すれば、技能者は自身の技能を客観的にアピールできるようになる。元請けは、現場に従事する技能者の保有資格や社会保険加入、一人親方の労災保険特別加入などの状況を正確に把握できるようになる。CCUSの登録情報を活用して専門工事業の施工能力を見える化すれば、技能者を育成し、雇用する企業が選ばれる環境整備にもつながる」
「国交省と建設業界が協力し、業界共通の制度インフラとしてCCUSを定着させたい。国交省としても、経営事項審査への加点、直轄工事でのモデル工事の実施などに取り組んでいく」
「i-Con「中小建設業に定着を」」
―建設現場の生産性を向上させるi-Constructionをどのように推進しますか。
「16年度に始まったICT施工は、適用が可能な直轄工事の約6割で実施されるまでになったが、自治体や自治体発注工事を受注する中小建設業には必ずしも十分に浸透していない。このため、中小建設業がICT施工に取り組みやすいよう、小規模工事の積算基準を見直した。直轄の53事務所を『i-Constructionサポート事務所』にも指定しており、こうした事務所を拠点に中小企業や自治体の底上げを引き続き進めたい」
「新技術の現場実装を加速するため、産学官の連携強化も必要だ。災害発生時にドローンを活用して被災状況を迅速に把握したり、危険箇所に無人化施工を導入するなど、作業員の安全確保のためにも新技術の活用は有効だ」
―建設業とトラック運送業には、社会保険未加入対策や働き方改革など同じ課題を抱えている。二つの業界を所管する国交省として、産業政策上、共通するアプローチはありますか。
「多層的な産業構造や担い手不足など共通の課題は確かに多い。これらの課題は、結局のところ自らの業界で完結できることではなく、建設業であれば発注者、トラック運送業であれば荷主の理解と協力がなければ前に進まないということだ。そこには、行政から発注者や荷主に働き掛けることも必要だろう」
「当たり前のことではあるが、掛かったコストを適正に支払ってもらうことを働き掛け続けるべき。そうでなくては、人手も集まらないし、健全な職場環境にもならない。必要なコストの明確化など、国交省も業界とともに関係者に働き掛けていきたい」