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【インタビュー】

(一社)長崎県地質調査業協会・桐原敏理事長『地域の安全は地域で守っていく』

災害支援活動の今を語る

2020年01月01日(水)

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人物

桐原会長

 近年、全国各地で多くの自然災害が発生。報道により甚大な被害状況や、自衛隊員の救助活動などが取り上げられている。県内においても豪雨や台風による災害が発生する中、10年間にわたり災害支援活動を行い、昨年10月に県北振興局から感謝状を贈呈された(一社)長崎県地質調査業協会。これまで、どのような取り組みを行ってきたのか。協会創立40周年の節目に、県内の防災と強く関わってきた桐原敏理事長に話を聞いた。

―協会の主な業務内容を教えてください。


 現在、当協会には16社が加入しています。主な活動内容は、▽会員の地質調査業に関する技術力の向上▽地域社会への貢献▽会員相互の親睦を深める活動―に取り組んでいます。併せて、長崎県などへ要望活動を行い、地質調査業界の発展に努めています。


 2009年度に県内の7振興局、10年度に佐世保市と災害支援協定(以下、協定)を締結。14年度には、長崎県知事と大規模災害支援協定を締結しました。さらに、今年度は九州地方整備局とも協定を結びました。災害の種別やその規模を調査し応急対策や復旧工法等に関する提案や、二次災害防止のための技術的な方策に関する提案などを行っています。


―どのような点に力を入れて活動されていますか。


 県内では、防災減災に対する期待が非常に高くなっています。長崎の地形・地質の特性を見ても特に斜面災害の危険度が高い地域です。そういった事から、各種研修会を開催して技術向上に努めています。


―昨年7月~9月の豪雨災害ではどのような対応をされたのでしょう。


 協定を結んだ各振興局から11件の支援要請がありました。内訳は、▽対馬振興局2件▽五島振興局5件▽県北振興局4件―。このほか、佐世保市から7件の要請がありました。これらの多くが、7月と8月末の豪雨によるものでした。7月豪雨では主に五島・対馬を中心とした離島が被災し、例年以上多くの支援活動を行いました。


 当協会では、適切な支援活動が出来るように体制を整えていますが、離島では地理的な面で苦労する場合もあり、要請側と費用負担等についても協議しながら活動しました。


―日々の業務を行ないながらの支援活動は大変ではないですか。


 働き方改革も関連して非常に大きな課題となっています。近年、『防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策』に伴う業務などで仕事量も多くなっています。その中で、我々地質調査業協会への災害協定に基づく活動要請は極めて緊急性が高く優先せざるを得ません。通常業務と支援活動のバランスをどうとるかは業界だけでなく、発注者(要請者)も一緒になって解決すべき課題として、要望活動を通して手持ちの業務で工期等に猶予がある場合は柔軟に対応していただくようお願いしています。


 現在、当協会には設計や施工管理を含め約300人の技術者が在籍しており、地質調査・斜面防災に携わる技術者はその半数~3分の1程度と考えられます。原則として、1つの支援活動に会員2社から2人ずつ計4人で取り組んでいます。そのような中でリーダーとして活動するまでには相当の実務経験を要します。また、支援活動で求められるものも、原因・メカニズムの解明や応急対策の必要性、その対策に向けた技術的な提案など様々です。限られた人数での活動となるため、技術の伝承や次世代の育成が課題だと会員から聞いています。


―では、長い月日を掛けて人材を育成する必要がありますね。


 そうです。ただ、建設業界をはじめ、我々の地質調査業界においても若い人がなかなか入って来ていないという現実があります。地元の工業高校などは、これまである程度の採用実績がありますが、リクルート活動が充分でない大卒採用は非常に厳しく、斜面防災などにおけるリーダー的な人材の確保に苦慮しています。


 防災などの面においても地域企業が果たす役割は大きいと考えます。学生の皆さんには『地域の安全は地域で守っていく』という事と、社会的評価の高い業界だという事を知ってもらい、是非目を向けていただきたい。


―県北振興局からの感謝状に対し、率直な感想をお聞かせください。


 9年度に協定を結んで以降、10年間の活動の中で初めて感謝状をいただき嬉しく思います。県北地域は、地すべりなどの危険度が特に高い地域です。当協会会員を見ても、県北地域に11社あることから斜面防災に関する業務の多さが窺えます。


―創立40周年を迎えるにあたり、今後の抱負や取り組みなどを教えてください。


 10年間の社会貢献や支援活動の中で、大きな役割として求められていると強く実感しています。当協会の歴史を振り返ってみても、防災との関わりが非常に強いと改めて感じます。特に災害復旧に際しては初動対応が極めて重要で我々の専門技術に対する期待度は高く、これまでの実績を踏まえてよりよい活動を目指すとともに、地域に貢献できるよう取り組んでいきたいです。


1953年(昭和28年)鹿児島県薩摩川内市生まれ。1976年、長崎大学工学部土木工学科卒業後、大栄開発㈱に入社。2012年に同社代表取締役に就任。2015年から同協会理事長を務め、現在に至る。

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