【対談】地域建設業の働き方改革
平田副知事・谷村長崎建産連会長 /目指す方向は行政・業界も同じ
〝ここ数年が勝負〟タイミング逃さず取り組み、現場で働くすべての人の処遇改善を
2019年01月01日(火)
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少子高齢化が進み、10年後には団塊世代の大量離職が見込まれる建設産業。災害対応やインフラの整備・維持管理など、地域を支える続ける役割をいかに維持するかが大きな課題となっている。このような中、国土交通省が〝長時間労働の是正(週休二日制の導入後押しなど)〟〝給与・社会保険(技能・経験にふさわしい処遇の実現など)〟〝生産性向上(i―Constructionの推進など)〟で―構成する『建設業働き方改革加速化プログラム』を制定した。地域建設業の働き方改革への対応について、国土交通省の建設業課長を経て副知事に就いた平田研氏と、長崎県建設産業団体連合会会長の谷村隆三氏に対談してもらった。
国と歩調合わせ取り組み加速
平田 「担い手を確保・育成し、建設業の方々に今後も社会的な役割を果たしていただくことは官民両方にとって重要な課題です。加速化プログラムが策定され、国を挙げた取り組みが進められるのは、中長期的な建設業の担い手を確保する上で非常に大切。県としても既に、国の動きに併せて、週休二日工事やICT活用工事、社会保険加入対策などに取り組んでいますが、プログラムを契機にさらに国と歩調を合わせて加速していきます」
谷村 「働き方改革は、担い手の確保・育成に向けたこれまでの取り組みの一環として受け止めています。既に、労務単価の改訂が賃金の上昇につながるなど、成果も表れています。ただ、まだまだ緒に就いたものが大部分。国・県が取り組む内容を、業界としてどう反映していくかが今後の課題です」
谷村 「公共工事は単価から仕事の進め方まで発注者が決めており、業界は〝おんぶにだっこ〟の状態かもしれません。もちろん、自分達で何ができるかを考え、自ら変えていく姿勢が必要だと思っています。その上で、行政に対しては、まず適切な設計変更の対応をお願いしたい。ガイドラインは作成されているものの、十分に徹底されていない場合があります。また、事前協議や支障解消が不十分なまま工事が発注され、工期が伸びてしまうケースが目立つ。この傾向は国↓県↓市町になるほど多くなると感じています」
平田 「その傾向は、全国的にも同じ。自治体の規模が小さくなると体制が整わず、適切に対応できないケースがあります。国もガイドラインを制定し市町村への普及に努めているところ。県としても、あらゆる機会を捉えて引き続き周知していきます」
平田 「行政が取り組みを進めているのは、建設業が社会的に重要な役割を果たしており、その役割を今後も継続してほしいから。業界の方々にはこの思いを汲んでもらい、公共事業で実施しているさまざまな施策の効果を、具体的な処遇の改善につなげる努力をしてほしいですね。ここでは当然、下請け業者も含めた、現場で実際に働いているすべての方々の処遇改善につなげることが大切です」
谷村 「業界としても魅力ある産業に向けた努力は進めてきました。しかし、日給月給制の状態では、労働時間を減らしたり休日を増やすと、賃金の減少につながってしまう。そのため、専門工事業者や資材業者は、ある現場が休みの日は、別の現場で働く可能性があり、元請けはそれについて何も言えない。このほか、夏場の工事では、熱中症対策として充分に休憩を確保しなければならず、拘束時間と実作業時間に大幅な開きが生じる問題もあります。労働時間減・休日増を進めると、作業に携わる人員が足らなくなります。新たな人員の補充は難しく、結果的に現在いる人たちの負担が増すといった悩みに直面。取り組みがなかなか進まない状況に陥っているのが現状です」
平田 「会長がいま話をされた事柄はすべて密接に関係していると言えるでしょう。例えば、発注を平準化し、年間を通じて安定した仕事量が確保できれば、労働時間の長短や日給月給の問題も改善に向かうでしょう。行政と業界が目指している方向は一緒。できるところから一つ一つ取り組んで行くしかないですね」
「来年4月施行の改正労働基準法で、建設業にも他産業と同様に罰則付きの時間外労働規制が適用されることになりました。5年間の猶予期間はあるものの、これまで業界が経験したことのない待ったなしの状況だと言って過言ではありません。適正な工期設定や生産性の向上はじめ、さまざまな施策に取り組み、5年後に備えなければならないでしょう」
「ICTの積極的な活用をはじめとするi―Constructionによる生産性向上は、中小建設業では取り組みにくいとの声を聞きます。しかし従事者の高齢化が進み、若年層を確保できたとしても絶対数が少ない中、ICT化は避けて通れません。各企業が中長期的な視点で、企業経営の姿を描きながら、人の確保や設備投資に取り組んでほしいです」
谷村 「県内の事業者も、改正労基法への対応に向けて準備を進めています。ただ、適正な労働時間や週休二日、適正賃金、新規雇用、生産性向上、品質確保などを進めるには『企業の健全経営』が大前提です。過去に、県内の建設業界は、倒産や安全管理面へのしわ寄せ、工事成績の下落などが顕著になった時期がありました。この状況を踏まえた県は、2009年に最低制限価格を85%から90%に引き上げました。当時の桑原徹郎土木部長は、県内建設業の平均営業利益率を3%に引き上げることが目標だとも話していました。私も同感です」
取組検討の指標に営業利益率上昇を
「最低制限価格の引き上げにより営業利益率は確かに上昇し、倒産が大幅に減少。工事成績は上がり工事品質も確保されました。しかしその後、営業利益率は下降傾向が続き、2016年度は1・5%。全国平均よりかなり低い状況になっています。健全経営を実現するためにも、今後の取り組みを検討する際の指標・目標として、ぜひ『営業利益率の向上』を掲げてほしいのです」
さまざまな施策が密接に関係
「改正品質確保促進法では〝適正な利潤の確保〟が大きな柱。落札率は営業利益に直結します。適正な予定価格を設定しても、結果的に(最低制限価格や低入札調査価格の)予定価格の90%に張り付いて競争が行われている限り平均落札率と営業利益率は上がりません。公共工事契約業務連絡協議会のモデルに基づき入札契約制度を検討している現在の在り方を見直し、品質の確保や働き方改革の障害になりかねない価格での落札をなくすような独自の入札制度の検討を期待します」
平田 「公契連モデルに各自治体が必ず従わなければならないということで決してありません。地域独自の制度設計は可能です。県内には離島をはじめ、さまざまな地域があります。各地域に目配りしながら、そして、その地域に根付いて活動を続ける建設業者の方々の意見も聞きながら取り組みを検討していきたいと思っています」
「企業規模が小さいほど、景況感が良くない傾向にあるかもしれませんが、かつてよりは良くなっていると思われます。このタイミングを逃さず、本格的な高齢化を迎える前の『ここ数年が勝負』だとの思いを持ってほしいです。行政側もこのタイミングで業界側の取り組みが進むよう、さまざまな応援をしていきます」