国内誘致合戦を勝ち抜け九州・長崎IR
ハウステンボス地域への誘致を推進
県の構造的課題を解決・九州全体に効果
2019年01月01日(火)
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昨年7月に成立したIR(特定複合観光施設)整備法により、〝IR〟という言葉を耳にする機会が増えた。長崎県と佐世保市では、ハウステンボス地域を候補地としてIRの誘致に取り組んでいる。他県に比べて人口減少率が高く、所得も低迷している長崎県にあって、二つの世界遺産登録やクルーズ船の寄港増などにより成長傾向にある「観光産業」は、新たな人の流れや良質な雇用の創出など、県が直面している構造的な課題を解決する力を持っている。そして、その大きな柱となり得るのが〝IR〟だ。
IRは、国際競争力の高い滞在型観光を進めるために民間事業者が設置・運営する観光施設。国際会議場・展示場やホテル、レストラン・ショッピングモール、エンターテインメント施設(水族館、劇場など)、カジノといった複合的な機能を一体的に提供する。例えばシンガポールに整備されたIRの一つ『リゾート・ワールド・セントーサ』は、六つのホテルのほか、ユニバーサルスタジオ、レストラン・ショッピングモール、水族館、海洋歴史博物館、カジノで構成。同国のIR導入による経済効果(2009年と14年の比較、シンガポールのもう一つのIR『マリーナベイサンズ』も含む)は、外国人観光客が56%増(968万人→1510万人)、外国人旅行消費額が86%増(1兆円→1兆8600億円)、国際会議開催数が23%増(689件→850件)。さらに1万2000人の新たな雇用を生んでいる。
IR整備法では、国内で3カ所を上限にIR区域を認定すると規定。現在IRの誘致を表明しているのは、長崎県のほか、大阪府・大阪市と和歌山県。このほか、北海道や東京都、横浜市、愛知県・常滑市、名古屋市などで検討の動きがある。厳しい地域間競争を勝ち抜き、長崎へのIRの誘致を実現するには、地域が一体となった取組が大前提。まずは県民が長崎IRに関心を持ち、理解することが必要だ。ここでは長崎が目指すIRを、長崎県・佐世保市IR推進協議会の有識者会議が取りまとめた基本構想を基に紹介する。
取りまとめでは、長崎がアジアと近く、古来からの交流の歴史を持つとともに、▽国際平和(平和祈念像など)▽二つの世界遺産▽国立公園や離島などの自然環境▽独自の食文化や伝統工芸・まつり―といった国際的にメッセージ性の高い観光資源を有するなどのポテンシャルを最大限に生かしたIR導入の方向性を提示。世界最高水準のIRの導入で、九州に多数ある国境離島地域の保全・振興や、九州の歴史・芸術・伝統文化の保全・活用を実現。さらに日本とアジアをつなぐ「九州ゲートウェイ機能」も強化できるとした。このように長崎のIRは、長崎だけでなく九州全体が連携し、一体となって効果を発揮することを目指している。
九州が連携・連帯したIR
IRのコンセプトは『ユニーク・マリンIR』。九州が連携・連帯したIRとの想いを込め、英語で団結を意味するUnitedのUniに九州の9を組みあわせ「ユニーク」とした。これに、交流の歴史などを育んだ九州の海(マリン)をつなげるとともに、IRにIntegrated Resort(統合型リゾート)のほかにアイランド・リゾートの意味も含ませた。コンセプトの要素は、独自性×先駆性、海×島、歴史×国際交流―など。
これらを踏まえた、あるべき施設・機能として▽ショーケース機能を備えた「観光魅力増進施設」=九州の歴史・文化・伝統を継承・体験できる施設、最先端技術を活用した消費・送客のきっかけづくりを図る施設▽ゲートウェイ機能を備えた「観光旅行促進施設」=最先端技術を活用したコンシェルジュ機能、九州内の陸・海・空をフル活用した周遊体験▽世界で勝ち抜く機能を備えた「MICE施設」=国を代表する規模のコンベンションホール、コンサートが開催可能な一定規模以上の展示場施設▽上質なホテル機能を備えた「宿泊施設」=宿泊需要の増加に対応できる施設の設置(周辺施設の利用・開発も促進)、ハイグレードを含む幅広い客層・ニーズに対応できる宿泊機能▽観光客の来訪・滞在促進機能を備えた「その他施設」=モノからコト消費に移行している需要を踏まえた体験型観光促進に資するアメニティの提供(マリンスポーツ、アイランド・ツーリズムなど)―を挙げている。
IR構想のエリアは、六つの開発層(レイヤー)に分けて整理している。まずはIR施設を整備するエリア(ハウステンボスの既存施設に隣接する更地)として、ハウステンボスのロッテルダム駐車場や第一・第二駐車場、JRA駐車場・アートガーデンなど最大34㌶を想定(下図参照)。次に、ハウステンボスの既存施設も含めたハウステンボスエリアの最大100㌶。これらをIRの候補区域としている。
その上で、観光周遊に必要な施設など民間投資による開発を促進する「大村湾を中心としたエリア」、県広域で交通インフラ・観光素材などを都市間が連携して整備する「長崎県内」、九州各地が連携し一体となって九州広域での観光消費を促進する「九州一体の観光振興単位」、そして「全国への観光促進」につなげる。九州・長崎にIRという新たな玄関口を設けることで、関東~近畿の〝ゴールデンルート〟に集中している訪日観光客の新たな人の流れの創出を目指す。
建設投資額2000億円
これらの取組で、九州のブランドイメージの向上や観光インフラの整備、来訪・滞在・消費の促進といった九州の観光全体に貢献。有識者会議の取りまとめでは、九州圏内への経済波及効果として、集客延人数が年間約740万人、建設投資額が約2000億円と試算。「運営」による経済波及効果は約2600億円・雇用創出効果は約2・2万人。建設段階のみで発生する効果だけ見ても、経済波及効で約3700億円・雇用創出で約3・8万人と考えられている。
長崎におけるIRは九州全体に大きな効果をもたらすため、九州全体の官民が一体となって推進する方針を掲げている。九州地方知事会議では〝IR導入についての特別決議〟を既に4回行っている。九州各県知事と九州経済連合会会長ら九州経済界の代表者で組織する九州地域戦略会議でも、IR導入に九州一体となって取り組むことを確認している。
県内に目を向けても、長崎県・佐世保市IR推進協議会が、県民の理解や気運の醸成に向けて決起大会やセミナーを開催。昨年11月に県内3箇所(長崎市、新上五島町、諫早市)で開いたセミナーのアンケートでは、参加者の9割がIRの推進に理解を示したという。協議会ではさらに、1月から2月にかけて、佐世保市、西海市、川棚町、島原市でもセミナーを開催予定だ。誘致に向けた厳しい戦いが想定される中、建設業界もセミナーなどを通じて理解を深め、次の展開につなげていくことが大切ではないだろうか。
IR導入に向けた国・県の動き
長崎IR 10年以上にわたり官民で活動を展開
議員立法で、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推進法)が成立したのは2016年12月。その10年近く前の07年、民間が中心となり「西九州統合型リゾート研究会」が発足。その後、県議会がIR関係法の早期法整備などについての意見書を政府へ提出(12年)するなど、県内での動きは着実に進展。13年には佐世保市議会IR推進議員連盟の発足や、県と佐世保市による「IR調査検討協議会」の設置が進み、14年に知事がIRの誘致推進を表明、同年、長崎県・佐世保市IR推進協議会が設置された。
一方国では、17年3月に総理を本部長とするIR推進本部を設置。同年7月にはIR区域認定制度やカジノ規制の在り方などについての取りまとめ結果を公表した。そして18年4月、IRの導入目的や制度を設計した「特定複合観光施設区域整備法」(IR整備法)を国会に提出、同年7月に成立した。
県は17年10月に企画振興部に「IR推進室」を設置。長崎IRの基本構想検討に当たり、推進協議会として11月から18年3月にかけて有識者会議を4回開催した。ここでは、IR事業者を含む民間事業者を対象にアイデアも募集(RFI)。38社から提案が寄せられた。今後の想定されるスケジュールはフロー図参照。