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〝なぜ進まない〟民間病院の耐震化/県内38病院で耐震性に不安/Is値0・3未満の建物が8病院も

2022年01月04日(火)

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 県内で調査を行った148病院のうち、新耐震基準を満たさないなど未耐震とされるものが全38病院あることが、厚生労働省のまとめで判明。耐震性に不安を残す施設が依然として多いことが浮き彫りとなった。患者や職員の安全確保の観点からも、耐震化工事などが必要だが、なかなか進まない状況だ。全国平均を下回っている本県の状況や要因などについてまとめた。
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本県は全国平均以下耐震性に不安を残す


 2020年の耐震化率は全国平均77・3%で、19年度と比較すると1・3ポイント増加した。これに対し本県は74・3%。前年と比べ1・8ポイント増えたものの、依然として全国平均を下回っている状況だ。さらには震度6強以上の揺れが起こった場合、倒壊または崩壊の危険性が高いIs値0・3未満の建物が8病院あることも分かった。


耐震診断未実施全体の6分の1


 本県においては148病院が対象。このうち、110病院がすべての建物に耐震性があると回答した。未耐震とされるのは、これ以外の38病院。内訳は一部の建物に耐震性があるのが12病院、全ての建物に耐震性がないのが2病院ある。それに建物の耐震性が不明である(耐震診断を実施していない)のが24病院で、全体の6分の1を占める。

 一部の建物に耐震性があるもの、全ての建物に耐震性がないもの、建物の耐震性が不明であるもののうち、20年度末までにすべての建物が耐震化される予定であると回答したのは、わずか1病院にとどまっている。このため本県における20年度末の耐震化率は75・0%となる見込みだ。その時点でも全国平均には届かない。

 一方、災害拠点病院および救命救急センターの耐震化率は進んでいる。調査対象となった13病院すべてが建物に耐震性があると回答。耐震化率100%となっている。

 厚生労働省のまとめによると、今回調査で耐震化率が最も高かったのは静岡県で91・8%。一方、耐震化率が最も低かったのは京都府で65・6%となっている。

 九州・沖縄8県を見ると、▽福岡県71・3%▽佐賀県74・0%▽長崎県74・3%▽熊本県71・6%▽大分県86・3%▽宮崎県81・0%▽鹿児島県74・8%▽沖縄県82・2%―となっており、中でも、大分県が最も高い。だが、全国平均(77・3%)を上回っているのは大分県、宮崎県、沖縄県の3県にすぎない。

 ただ、少しずつだが耐震化率の全国平均は上がってきている。2005年時点ではわずか36・4%だった。しかしその後、少しずつではあるが上昇。12年度64・2%、13年度64・2%、14年度67・0%、15年度69・4%、16年度71・5%、17年度72・9%、18年度74・5%、19年度76・0%、20年度77・3%となっている。

 近年は全国各地で異常気象が見られる。大規模地震が発生した場合、非常に危険な状態であることから、一刻も早い対策や工事が必要だ。


資金難も要因の一つコロナ禍が追い打ち


 病院施設の耐震化が進まない背景の一つには、病院側の資金難もある。さらに、コロナ禍も追い打ちをかけている。耐震化工事に関して国の補助制度はあるものの、2分の1が病院負担となる。建て替え移転する際の解体工事費などは、病院負担となっている。

 病院や診療所は、多くの入院患者を抱えているだけでなく、大規模地震が起きた際には、被災者に適切な医療を提供する拠点となる建物。病院・診療所の耐震診断・耐震改修については、これまで努力義務とされてきたが、2013年の耐震改修促進法改正で、大規模なものについて耐震診断を実施し、結果を報告することが義務付けられた。

 熊本地震などでは建物の損傷で診療中止に追い込まれた医療機関も。このため国は、補助金制度の積極活用を呼びかけ、早期改修を求めている。

 厚生労働省と国土交通省では、病院等の耐震化支援事業を行っている。このうち、厚生労働省は政策医療を担う病院(救急救命センター、病院群輪番制病院など)に対し、耐震診断(医療施設耐震化促進事業)と耐震改修(医療施設等耐震整備事業)で支援する。耐震診断の補助率は国が3分の1、県が3分の1で、基準額は1カ所あたり560万円。耐震改修の場合は国の補助率が2分の1となっている。

 これ以外の病院や診療所等に関しては、国土交通省が支援。耐震診断の補助率は、公共建築物に対し国が3分の1、民間建築物(地方公共団体に補助制度が整備されている場合のみ)に対しては国が3分の1、地方が3分の1。

 また耐震改修の補助率は、公共建築物に対し国が11・5%。民間建築物(地方公共団体に補助制度が整備されている場合のみ、国が支援を実施)に対しては国が11・5%、地方が11・5%となっている。


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