特集記事

理路雑然―188―

2021年12月25日(土)

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理路雑然

 「楽天的になれる本」(斉藤茂太・精神科医)を買ってきて読んだ。世間が新型コロナの話に満ちてはや二年。感染予防の自粛風潮ムードも晴れない。気が重い日々が続き、そのせいであれもこれも悲観的になっているからだ▼その本の中に、「思い切って気晴らしの旅に出よう」「仏像に会いに行き、気ままにブツブツ(仏々)話しかけよう」というのがある。なるほどと思っているとき偶然に大阪での会議案内があった。これはよしと、家人の冷たい目を無視して出席することにした。紅葉もまだ残っているかもしれないし、宿泊は奈良のホテル。次の早朝、改修が終わった世界遺産「薬師寺」に一番乗り。神仏に医学的な効能は期待できないが、冷たい空気の中広い境内を歩くと心が落ち着く心地だった。まだ誰もいなかったので、本にある通り仏像にブツブツ話しかけてきた▼奈良や京都の古いお寺は、建立の縁起を読むと、飢饉、戦乱、祟りや伝染病を封じるためのものが多い。天然痘では人口の3分の1が犠牲になったともある▼今の新型コロナワクチンと同じく、厄除けは宗教と政治の最優先の役目。いよいよひどくなると都をまるごと移した。そんな由来を読みながら古代日本の歴史を知るのも興味深い▼「うつな気分に陥ったら、『勝手にしやがれ』と開き直ってみよう」「人生八〇%主義で行こう」「失敗は成功よりも楽しい」▼私たちはこの二年を失ったわけではなく、人類史に残る貴重な経験に遭遇したとも言える。その振る舞いは記録に残り、将来の人々が知ることになる。しっかりしなくては。


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