理路雑然―192―
2022年03月05日(土)
特集記事
理路雑然
会話の中でつい出てしまう「昔は・・・」という口癖は老化の証拠だという。なぜなら若者は「昔」という比較するものがないから「昔は」とは言わない。あるのは今と未来だけだ。うらやましいことだ▼「昔は良かった」と思うのも誤解だ。そんなことはない。都合のいい記憶をつなぎ合わせ、昔を作り上げている。事実に基づいていない。冷静に昔と今を比較すると、昔は良かったというのは間違っている▼例えば生活について思い出してみよう。子供の頃は家にはエアコンなどなく、夏は扇風機、冬はストーブだった。自家用車を持つ人は少なかった。着る物や食べ物、テレビや電話、医療、何もかもが今と比べると粗末で不自由だった。低賃金で、社会保障も貧弱、肉体労働が多かった。皆が貧しく社会には暴力が横行していた。十分な教育も受けられない子供がいたし、学校の先生からはひっぱたかれていた。石炭と排気ガスで空気が汚れていた。コピー機もファックスもコンピュータもなかった。などなど取り上げれば切りがない▼一方、若者はそんな昔は知らないのだからすべて今が起点だ。これから先が良くなるのか悪くなるのか、今の視点で生活も政治も経済も文化も考える。多様性、ジェンダー、差別や格差が俎上に上がるのも当然な時代変化▼とは言え変わらないのは、まわりの目を気にする心理。世間の評判は行動の大きな動機であり続けている。SNSに流れる「いいね」やフェイクニュース、ウケ狙いのお笑い芸人の馬鹿なセリフ。つい昔はこんなひどくはなかったと言いたくなる。