特集記事

理路雑然―197―

2022年05月21日(土)

特集記事

理路雑然

 誰もが自分の考えは正しいと思いがちだ。いつも間違っていると思うのは無理だ。しかも心の奥では自分は多数派でもあると信じている。もしそうでない現実を見せつけられても、いずれそうなると心の中では思っている。正しいことはいずれ成就するはずとも考える▼子供の頃からそのように教えられて育った。おとぎ話や神仏の教え、小説、社会のルールなどすべてがだ。話の終わりはそのようにならないと据わりが悪い▼ところが現実はそうではない。力づくの悪が栄え、愚かな方が多数となるのが常だ。ずるい奴が正直者を駆逐する。そして邪悪な勝者は、正しかった敗者を愚か者にする物語を作り出し、正義と不義が逆転する。歴史を振り返るとそれが分かる。英雄とされている人物はよく観察すると馬鹿だし、無慈悲な人殺しになることもある▼そんな道理に反する現実から自分を守るには、多数派か勝者の側に、沿い従うのが手っ取り早い。すなわち強者や多数がいつも正しいわけではない▼このコラムを書いているとき、ロシアがウクライナに武力侵攻し、戦闘と避難民の映像が流れている。攻めるプーチン大統領は自分の考えと判断は間違っているとは思っていなかっただろう。英雄になりたいと願っていたのかも知れない▼今は安全な我が国で、あんのんと、砲弾から逃れようとする人々の姿を見るだけの自分が情けない。つくづく人の愚かさを悲しみ、失望の溜息ばかり▼いや人類はそれほど愚かではないと信じたい。平和な生活を過ごしている人の命を奪ってまで行う正義などあるわけがない▼自分は正しいと思っても、思い返す冷静さをいつも持ち続けなくてはならない。


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