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【Interview】長崎労働基準監督署・宮本浩一署長 /きょう7月1日から全国安全週間 /労働災害減少へ墜落・転落防止等に重点

2022年07月01日(金)

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人物

 

建設業事故の型

労働災害の推移

 1カ月の準備期間を経て、本年で第95回目を迎える「全国安全週間」が、きょう7月1日から7日までの期間で始まる。今回のスローガンは『安全は 急がず焦らず怠らず』―。今年は第13次労働災害防止計画の最終年。「人命尊重」という崇高な基本理念のもと、いかに労働災害件数を減少させていくかが重要な課題だ。今年4月に着任、長崎労働基準監督署全体の指揮を執る宮本浩一署長に、重点課題のほか、災害ゼロに向けて心掛けるべき点などを尋ねた。

―長崎労働基準監督署の重点課題について教えてください。


 重点課題として①中小企業を中心とする改正労基法等の周知徹底および支援②改正労基法等に基づく長時間労働の抑制および過重労働による健康障害防止の徹底③管内の労働災害の発生状況等に応じた労働災害の防止④労災給付の迅速・適正な処理―といった四つが挙げられる。いずれも監督(方面)、安全衛生、労災の各部署が連携して取り組むべき課題である。


―長崎署管内における災害発生状況や事故の型別は。


 『第13次防』最終年の本年を見ると、5月末現在で長崎署管内における建設業の死亡災害は発生していない。引き続き、基本的な事項の徹底と労働者への安全教育の徹底などに努めてほしい。


 2021年における建設業の休業4日以上の労働災害の事故型別では、「墜落・転落」が全体の33%(81人中27人)を占め最多。中でも脚立・はしご、足場、建築物・構造物などで発生。脚立などの安全な使用、足場の整備、墜落防止措置が求められる。フルハーネス型など墜落制止用器具の機能が進化してきているとはいえ、墜落防止対策の原則は手すり・囲い・覆いなどである。あくまで、設備面での対応であることを忘れないでいただきたい。


 このほか、「挟まれ・巻き込まれ」11%、「切れこすれ」11%、「飛来落下」10%、「動作の反動・無理な動作」9%などが挙げられる。このうち「挟まれ・巻き込まれ」は車両系建設機械、移動式クレーン、動力運搬機械が関係する災害が散見される。


―災害ゼロに向け最も心掛けるべき点とは、どのようなことですか。


 建設工事現場の特徴である元請・下請の関係から、元方事業者として統括安全衛生管理の実施、関係請負人に対する適切な指導および下請として職長・安全衛生責任者の選定を行い、労働災害防止に取り組むことが重要だ。


 「墜落・転落」災害の防止においては、まず手すり・中さんなどの適切な設置を徹底してほしい。また、フルハーネス型などの着用が義務付けられ、2022年1月から完全実施となった。着用の徹底に心掛けてほしい。ただ、フックの取付位置が低いと、墜落制止時に落下距離が長くなり、衝撃荷重が大きくなって身体に損傷を及ぼすおそれがある。特に低層で着用時は、頭上より高いところにフックをかけるようにしていただきたい。


 建設業における災害発生件数は増加傾向にある。ひとたび事故が起こると重篤災害になりやすい業種。他の業種と比べて、「墜落・転落」災害の割合が高い状況にある。


 ちなみに、災害全体を見ると、被災者の5割以上が50歳以上の高年齢労働者となっている。建設業を含め全産業で、高齢者の災害が増加傾向にある。年齢が上がるごとに、「墜落・転落」「転倒」災害が増えている。


―新型コロナウイルスが収束していない中、これから本格的な暑さとなり、熱中症が心配されますが。


 5月から9月まで「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」を実施中。7月を重点取組期間として労働災害防止団体などと連携して、熱中症死亡ゼロを目標に取り組みを進めている。予防のためには、JIS規格に適合した暑さ指数計による暑さ指数(WBGT値)の把握と低減対策の実施のほか、水分や塩分の摂取、休憩時間・休憩場所の確保、健康管理が重要だ。


 また、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、「三つの密」を避けることを徹底していただきたい。朝礼や点呼は人が密集しないよう小グループで行ってほしい。マスクや溶接面等で顔が隠れると、熱中症の初期症状を見逃すことがあるので注意していただきたい。


―最後に、建設業に携わる方々に一言お願いします。


 働き方改革関連法案が施行されて3年がたった。2024年4月から残業(時間外労働)の上限規制が建設業にも適用される。このため、今のうちから体制を整えてほしい。安全で快適な職場の環境づくりに努めていただきたい。


 全産業で言えることだが、建設業界においても、人手不足が課題で高齢化が進んでいる。若手の育成に努めるとともに、これまで培われた技術や経験を次世代に伝えていってほしい。



  • 宮本浩一(みやもと・こういち)
     1964年、福岡県大牟田市に生まれる。
     1986年に労働基準監督官として旧労働省に採用。初任地は長崎。その後、大分での勤務を経て、1993年から長崎労働局管内で勤務。対馬署長、江迎署長、労働基準部主任監察監督官等を歴任。本年4月から現職。

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