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【全8回】地域建設業のグリーン戦略(3)

建設トップランナーフォーラム・美保テクノス(鳥取県)・野津健市氏 /鳥取県営水力発電所のPFI再生事業への挑戦 /「思い」汲み取り、地域で支える持続可能性

2022年07月27日(水)

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発表する野津氏

 人口・地方税収入は全国最下位、県民所得も最低レベル。「人口減少・少子高齢化の先進地域」と言うべき鳥取県は2019年、全国初となる「水力発電施設のコンセッション方式によるPFI事業」の実施に踏み切った。大手企業と共に運営の一角を担う美保テクノス(鳥取県米子市)の野津健市社長は、事業への参画を通して得た知見を共有した。


 社会保障・人口問題研究所が18年に示した地域別将来推計人口によれば、鳥取県の人口は今後20年あまりで45万人を割ると予想されている。地域コミュニティの存続が危ぶまれる中、官民の垣根を越えた持続可能性の確保は喫緊の課題。稼働開始から半世紀以上が経過した県営発電施設4カ所の再整備事業にも、民間活力の導入が検討されることになった。


 県内初の本格的なPFI事業で、水力発電施設としては全国初。「今後の公共事業の案件獲得には避けて通れない」として、美保テクノスにとっても初となるPFI事業への挑戦を決めたという。


 まず取り掛かったのは、事業主体である県の「思い」「狙い」を正確に把握することだった。丁寧なヒアリングで判断基準を明らかにし、地域企業としての視点も加味して参画すべきコンソーシアムを検討。三峰川電力(東京都)・中部電力(愛知県)・チュウブ(鳥取県)と共に立ち上げた「チーム・アクエリアス」は、7グループ50社が競う激戦の末、全ての評価項目でトップにつけ優先交渉権を勝ち取った。


 勝因は①県の「思い」の把握②信頼できるパートナー選び③大手企業と地元企業の融合・相乗効果―の3点にあったと野津社長は分析する。「非常に公共性が高い施設であり、県民の安心・安全につながる事業者に任せたいという思いが根底にある。大手発電事業者の豊富な実績に加え、地域企業の参画で下流域との関わり方も熟知しているチームだからこそ、地元が何を考え、何が必要かを理解して提案できた」と振り返った。


 チームは20年3月、特別目的会社(SPC)「M&C水力発電」を設立。半年後には先行して再整備を終えた舂米(つくよね)水力発電所の運営権を引き継ぎ、最長50年間に及ぶ長期事業のスタートを切った。大手電力事業者の熟練技術者が初期の舵取りを担う一方、並行して教育・技術伝承を進め、ゆくゆくは地元人材による運営・保守体制の確立を目指すという。


 未知の領域へ打って出たことで、受注機会の獲得や新規事業への進出、地域貢献に人材育成など、様々な面で収穫が得られたと話す野津社長。培ったノウハウは、同様の課題を抱えた自治体への水平展開も視野に入れる。地元主体で取り組む地方創生のモデルケースとして、美保テクノスの事例は大きな存在感を示した。(地方建設専門紙の会・日刊建設工業新聞)


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