特集記事

理路雑然―203―

2022年08月20日(土)

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理路雑然

 また「嘘」のはなし▼随分前、ある投資の話が我が社に持ち込まれた。土地を借り工場を作り商品生産する投資の勧誘だ。技術提供、経営指導あり、初期資金はほどほど。生産物は有名な大手企業が丸ごと買い取りこちらのリスクはない。将来性があり確実に儲かる。すでに土地の持ち主と借地料は交渉済み▼はなしの主は、投資斡旋会社の社長で立派な身なり。会社案内には、東京赤坂に立派な本社ビルの写真。長崎に工場を立地する理由は温暖さや安い人件費だ。彼らにとっては事業規模が小さいので地元の企業に任せたいという▼本人は某国の有名人物と縁戚だそう。会話中に何度も携帯電話が鳴る。政界要人の名前を「君」付けで親しげに話すのが聞こえる。明日からアメリカに行くので今週は会えないとも。かなりの大物らしいが問うのも失礼と遠慮した▼数度会い事業計画を詰め話に乗ることにした。まずは借地の手付金を払う契約だ▼金を振り込む前日になにか変な気配を感じた。そこで東京の友人にその本社の場所に行ってもらった。すると、確かに建物はあるがオフィスの貸しビルだった。これはおかしい。警察署に行って事情を話すと、相手をしてくれた刑事はにやりと笑って引き出しから写真を出した。「こいつでしょ? 詐欺師です」▼危うく大損しなくて済んだ。誰もが自分だけはオレオレ詐欺と無縁と思っているが、今も被害者が多いのはこれでよく分かった。後で考えれば疑問もあったのに引っかかる▼「そのはなし、作り話でしょ?」といわれそうだが、いえいえ、嘘つきは嘘といわない。


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