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県土木部・川添正寿技監に聞く /受発注者が目標に向かい走る姿を世間に /災害復旧工事・社会的義務感からの受注を

2022年08月23日(火)

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 9月の新幹線開業や、年内とも言われるIRの区域認定など、明るい話題がある一方で、膨大なインフラの老朽化対応や新規入職者の確保など、対応すべき課題も多い県内の建設業界。直面するさまざまな状況にどのように対応していこうとしているのか、県土木部の川添正寿技監に聞いた。


―新幹線の開業やIRの区域認定を見据えた県内交通ネットワークの形成は


 「新たな高速交通体系として新幹線が加わることで、人々の動きが変化する。さらに、IR区域認定は、ヒトモノのあらゆる動きを質・量ともにダイナミックに変えてしまう可能性を秘めている。新幹線・IRがもたらす影響は大きく、その範囲は県土全体に及ぶ。土木部としては、施設間や地域間の交通ネットワークの形成は重要と考えており、高速道路、新幹線、空港、そして港湾との結合強化、それぞれの結節点における拠点整備、さらには施設間同士をつなぐ回廊整備など、やるべきことは多い」


 「各地域間の交通ネットワーク形成に不可欠な高規格道路については、昨年6月に長崎県新広域道路交通計画を策定。整備促進に全力で取り組んでいる。このうち島原道路は、今年5月に諫早市長野町から栗面町間が開通し、全体約50㌔のうち44%が完成。国で整備中の森山西IC~森山東ICも来年度に開通予定だ。西彼杵道路は、時津工区の今年度中の完成を予定し、北側の大串インターから西海市白似田間も〝大串白似田バイパス〟として、今年度事業化したところ。長崎南北幹線道路も、茂里町~滑石工区に新規着手。さらには、その延伸となる時津町間も、来年度の新規事業化を目指している。この区間は、市街地での大規模な工事となり、関係者間での調整事項が多く、完成までの工程も長い。1日でも早い投資効果を県民が享受できるよう、民間事業者とのパートナーシップにより事業を進める『事業促進PPP』の活用を検討している。このほか、長崎南環状線の新戸町~江川町工区では、今年度から約2㌔のトンネル工事に着手するなど、高規格道路ネットワーク形成を着実に進めている」


 「離島についても、今年度トンネルに着手する主要地方道厳原豆酘美津島線(吹崎工区)や一般県道渡良浦初瀬線(坪触工区)をはじめ、五島の主要地方道玉之浦大宝線(立谷工区)、一般国道384号白魚バイパスといった島内生活道路を整備。旅客ふ頭などの港湾整備も意欲的に進めていく」


―和歌山市の水管橋崩落や愛知県豊田市での頭首工漏水事故など、老朽化が要因のインフラ事故が増えている


 「インフラの事故は、市民生活や経済活動に大きな影響を及ぼすことをあらためて露呈した。老朽化は日頃のメンテナンスを怠ったことが起因する〝人災〟と言われかねない。本県では『長崎県橋梁長寿命化修繕計画』を策定し、橋梁の老朽化対策を計画的に進めてきた。特に、西海橋など七つの長大橋は、架け替え費用が多大となることから、高い維持管理レベルで予防保全し、長期的に安全に供用しなければならない。このため現在、長期的な官民連携の維持管理の仕組みを国が中心となって検討している。ごく近い将来、具体化するはずだ」


 「インフラの老朽化は、橋梁だけでなく、河川や港湾施設でも進んでいる。増大する維持管理コストや技術者不足などの課題を解決するため、AI技術を活用した劣化予測や診断を行うインフラ維持管理のDX化を図り、持続可能な予防保全型の維持管理を行うことが必須となる。今年度から、その基礎となる施設の高密度な三次元点群データの取得にもチャレンジしている。そうは言っても、日頃からの点検が最も基本。現在は、県職員と県職OBなどにより実施しているが、管理インフラが増えると、デジタル技術を活用しても、すべてを自前で行うのは難しくなる。そこで、住民参加が重要になる。インフラの不具合を見つけた時に通報する仕組みなどを通じ、住民がインフラのパートナーとして参加する姿を目指していきたい」


―担い手の確保に向けた取り組みは


 「建設業における新規高校卒業者の県内就職率は、2021年3月卒で62%。5年前と比べ13ポイント上昇しているが、充足率は約20%と他産業より低く、まだまだ担い手不足の状態。さらに、建設業就業者の年齢構成は、50歳以上が5割を超えており、今後、大量退職が見込まれる上、24年度から時間外労働の上限規制が適用される。年間の総労働時間が全産業に比べて長い建設業では、深刻な人材不足にますます拍車がかかるだろう」


 「担い手の確保は喫緊の課題で、これまでも工業高校の生徒を中心に、現場見学会や、卒業生による講話などを実施し、県内建設業に関心を持ってもらえるよう取組を展開してきた。今年度は、従来からの取組に加え、より幅広い若者に発信できるよう、県内建設業の魅力や就職情報発信の総合窓口となる就職ポータルサイトを設置。県内企業の先進的な取組や若手技術者のインタビュー記事などを紹介すると共に、旧来の3Kイメージを払拭し、誰もが働きやすい、希望が持てる業界であることを若い世代に示したいと考えている」


今こそ、現場へのICT技術など設備投資を


 「働き方改革や生産性向上は〝業界側の問題〟として片付けず、発注者としても、業界全体の発展のため、一緒になって取り組んできた。このことは業界にも認めて頂いていると思う。働き方改革のうち週休2日に関しては、県として、災害復旧工事などを除いて、4週8休の工期設定を標準とした工事発注を行っており、一定の成果を出せている。生産性向上については、建設企業の方々に、労働時間が長く技術者も少ない実態を踏まえ、建設投資が好調な今こそ、設備投資を真剣に考えていただきたい。ドローンによる測量や自動制御された建設機械の活用など、現場へのICT技術導入を積極的に推進し、省力化や安全性の確保など就労環境の改善につなげてほしい。無人化・非文書化・自動化・三次元化などが現場の常識になることは、遠い将来の話ではないはずだ」


―最後に、業界とどのような関係を築こうとしているのか


 「ここ数年、業界と第一線で対応する役職に就いていたこともあり〝お互いの立場で物言える関係〟が築けており、コミュニケーション不足に陥ることはないと自負している。ただ、立場が異なるので、テーマによっては一定の理解し合えるまで時間を要するものもあるが『住民に対し、喜んでもらえる良質なインフラを、いち早く届ける』との目標は同じなため、着地点は見いだせると信じている」


 「唯一、気になるのが不調不落問題。今の受発注者の関係は、一昔前の請負とは違う。平時の一般的な工事では、実行予算を精度よく見積もっていただき、赤字になるような工事は、会社経営を危うくするので、受注を避けてもらって構わない。一方、少しでも利潤が得られそうな工事には意欲的に受注に向き合ってほしい。利益を追うことは、ごくごく当然な商取引の原理原則であり、十分、理解している。この場合の不調不落対策は、我々発注者側が歩み寄らねばならない。しかし、非常時の災害復旧工事は違う。地域の守り手として、一般的な工事とは同一視せず一線を画した判断を期待したい。日頃の建設工事で利益を上げて体制を整え、いざという時に、スピードや地域貢献を重視した社会的義務観から受注してほしい。災害復旧工事が、いつまでたっても始まらないのは、地域住民の不幸に繋がる。少なくとも災害に対して、受発注者間で温度差があるのは好ましくない。発注者側に、至らない点があるのであれば、改善していく気持ちは十分ある」


 「いずれにしても、建設業は、誇れる、未来への可能性が広がっている産業。立場が異なるとはいえ、受発注者が目標に向かって一緒に走っている姿は、世間に示さないといけない。円滑な事業執行に向け、官民一体となって、これまで以上にパートナーシップを構築していきたい」



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