特集記事

理路雑然―205―

2022年09月17日(土)

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理路雑然

 携帯電話を使うようになってから電話番号を覚えなくなった。空で言えるのはほんのいくつか。時には自分の携帯の番号も「えーっと」となる。携帯がない頃、ある友人は数百人の電話番号を間違いなく答えた。特に勉強ができた人ではなかったが、この才能は驚きものだった▼カーナビを使い出すと道を覚えなくなった。自慢じゃないが、県下の国道、県道の路線名、起点と終点も知っていた。しかし路線名が変わってきたこともあり、今はそれがほぼダメ。地図は不要になり目的地もカーナビ任せになった▼便利さが進むと反比例して人の持つ能力が低下する。不思議な矛盾だ。楽をすると人は馬鹿に近づく。通信だって、古代の狼煙、手旗、飛脚、モールス信号の時代は人の才能が強く発揮されていた。もちろん記憶低下はこちらの脳の老化が原因でもあるが▼社会は日々新しい技術が進んでいる。通信機械、光学器機、ドローン、ICT、AI、デジタル化などなど、正確で便利になっている。しかしわからないことはすぐにスマホで調べられるのでものを覚えようとしない。測量や数量計算などは機械なしではできない。四則演算、四捨五入が分からない新入社員の話もある。基礎となる知識が薄れるのは深刻な問題だ▼便利になった反面、面倒で融通が利かなくなった。電子メールのアドレスは一文字違うと届かない。本人確認のパスワードも次々と要求されてこんがらがる。酒やたばこは、レジの向かいの店員が成人確認の画面タッチを求める▼便利さは都合良いばかりではない。デジタル化はバカ精密さがついて回る。そんな世界に突入している。


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