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日本初の無垢製材あらわし木造4階建て-睦モクヨンビル- /プロジェクトを通じSDGs、担い手確保・技術継承、地域活性化実現目指す

建築行為で脱炭素化に貢献

2023年01月04日(水)

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その他

民間工事

セメント圧縮板の外壁を張った外観(12月12日撮影)

内部断面パース

躯体工事完了時のモクヨンビル

内部の様子

県内外から参加者が訪れた見学会

中学生が職業体験で制作した構造模型

 温暖化に伴う地球規模での自然災害の激甚化・頻発化により、脱炭素化に向けた取り組みが世界的に注目を集めている。(長崎県の)壱岐でも「建築行為で脱炭素化に貢献したい」との想いが詰まったプロジェクトが進められている。日本初の無垢製材あらわし木造4階建てとして建築中の『睦モクヨンビル』では、脱炭素化・SDGsはもちろん、建設業が直面する担い手の確保・技術の継承、さらには地域活性化の実現を目指している。


モクヨンビルとは


 睦モクヨンビルは、壱岐市の建築設計事務所㈲睦設計コンサルタントが、自社事務所に隣接する湯川温泉駐車場前の敷地(1801・89平方㍍)に昨年7月から建設を進めている。防火地域・準防火地域・建基法22条指定区域のいずれにも該当せず、建築物の高さと同じだけの空地を全方向に確保(建築基準法第21条第1項但し書きを適用)できる敷地の立地条件を最大限に生かし、一般に流通する無垢製材を使って建設する4階建て木造ビルだ。


 建築面積は96・71平方㍍、延べ床面積292・05平方㍍、高さ14・65㍍。土台・柱はすべて国産材の無垢あらわし、横架材も米マツの無垢製材を使用。階段室はCLT工法を併用し、本体と構造的に切り離した。階高・スパンなどの寸法は一般流通材に基づき決定するとともに、耐力壁・床の構造用合板を仕上げとしてコストダウンを実現している。


 中央に吹抜け空間を設け、1階部分の吹抜け下のサロンをオープンカフェ、2階が民泊施設(3室)、3階が睦設計の事務所、4階が将来拡張用の居室スペースとする計画だ。


さまざまな取り組みの拠点に



 国内でも既に木造高層ビルは実現している。しかし、モクヨンプロジェクトを進める睦設計の松本隆之氏はそれらのビルについて「防火規定や構造上の面から、大断面集成材や不燃化処理木材などを使用する必要があり、S造やRC造と比べて割高。さらに、使用している工業製品木材(エンジニアリングウッド)は、生産過程で膨大なエネルギーを使用する」と指摘。地域の一般流通材を使用するモクヨンビルは「生産過程でCO2排出量も少なく、真の意味で建築による炭素貯蔵に繋がる」とした。


 モクヨンビルでは、「貴重な木造4階建て現場を、将来を担う大工に経験してもらいたい」との思いから、施工に当たり、〝大工塾〟として島内から若手の大工を公募。島内の熟練大工を棟梁に迎え、技能の継承を進めるとともに、CLTなど最新技術・工法の習得も進め、8月に建て方を完了した。


 施工現場はさらに、SDGsに係る環境教育の場としても活用。地元の中学生が職業体験したほか、現場の見学をSNSで随時受け付け、建築を学ぶ学生やその家族らが訪れている。11月には大規模な現場施工見学会も開催し、建築系専門学校の教諭と生徒のグループを含む約50人が県内外から参加した。


 今春の開業後には、敷地内に点在する既存の観光・飲食施設(壱岐湯川温泉、壱岐牛・和牛弦、壱岐文化村・壱州本陣)の中核として、広大なエリア一帯をブランド化。幅広い分野の事業誘致も目指し、観光そして地域の活性化につなげていく考えだ。


建設実績を木造ビルの都市準耐火型へ昇華


 1月中にも完成予定のモクヨンビルでは、出来高の情報数値のデータ化や報告書の作成、課題の洗い出しを進める。松本氏はその上で、構造設計や木材の供給・製造、構造金物の各事業者などと研究開発プロジェクトチームを立ち上げ、▽耐火構造の仕様研究・認定取得▽〝(ロ)準耐火建築物〟の燃え代設計の部材研究▽木製のつづり材・束ね材、環境にやさしい接合部材の開発▽建物解体後のカスケード利用研究―を推進。「一般流通材+大断面BP材」の環境にやさしい木材による都市準耐火型木造ビルの実現に向け、モックアップの作成や耐火実験を進めたい考えだ。


 将来的には、〝火災時倒壊防止建築物〟の要件の再考や、〝3㍍道路確保〟に代わる基準、新技術の開発により、建築基準法第21条が緩和され、条件付きで5階建てに適用されることを期待。併せて、SDGsの観点からも、輸送エネルギーやコストのかからない「地産地消」の考えが浸透し、国産材が積極的に活用され、一定のエリア内で「木材産地―林業―製材業―建設業―エンドユーザー」の好循環による木造ビル生産ラインが確立することを期待している。


 このような木造化が、日本のビルの7割を占めると言われている5階建てまで普及すれば、建築分野での脱炭素化の貢献度は一気に高まるはずだ。『天長地久』―松本氏は、未来の子供たちのため、自然環境と人類が共存し、地球がいつまでも美しい星であることを願っている。


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