犬を盗む／佐藤青南

　世田谷区内で資産家の1人暮らしの老女が殺害され、金品が奪われる強殺事件が発生する。部屋には、かつて犬を飼っていた痕跡があり、刑事である植村と下山は周辺の捜査を開始する。

　捜査を進めると、夫の死後、実の娘とも疎遠だった被害者の周囲の評判は、人嫌いと犬好きの２つに大きく割れていた。現場近くのコンビニで働く鶴崎の本職はルポライターであり、先輩アルバイトの松本が突然犬を飼い始めたのを機に接近して彼の過去と現在を暴こうとしていく。近所に住むミステリー作家の小野寺真希は、執筆の傍ら、愛犬を散歩してドッグランに連れて行くのが日課である。刑事と鶴崎と小野寺、この3つの視点ともう1つの犬の視点で物語りは進んでいく。人間同士の関係の希薄さに比べ、犬同士は互いの匂いを二度と忘れない。
　本書には多頭飼育や真の更生など様々な問題点が盛り込まれているが、犬の視点は純粋で犬好きの人にはたまらない作品である。

佐藤　青南／実業之日本社

1,700円+税

CHECK!

作者である佐藤青南さんは１９７５年長崎県島原生まれ、本作でデビュー10周年！