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【測量の日特集企画】『自由に使え。』オープンナガサキ座談会 /長崎県全域3次元点群データの可能性

2023年06月03日(土)

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その他

 

測量設計コンサルタンツ協会・安部会長

長崎大学大学院・デミー博士

県土木部建設企画課・中村課長

オープンナガサキの点群データ(長崎駅周辺)

街の景観や地形が一目で把握できる

協会の主な活動①

協会の主な活動②
  • (一社)長崎県測量設計コンサルタンツ協会 安部清美会長
  • 長崎県土木部建設企画課 中村泰博課長
  • 長崎大学大学院工学研究科 出水享


 長崎県は今年3月、九州で初となる3次元点群データ『オープンナガサキ』を公開した。現在、長崎市周辺を公開しており、今後、県全域の公開を目指す。点群データは『自由に使え。』のキャッチコピーそのままに、職種や分野、用途を問わずに誰もが自由に扱える。


 本紙では6月3日の測量の日に合わせて、オープンナガサキを公開した長崎県土木部建設企画課の中村泰博課長、県内測量業界をけん引する(一社)長崎県測量設計コンサルタンツ協会の安部清美会長(扇精光コンサルタンツ㈱)、世界遺産・軍艦島の点群データを基に研究を行う長崎大学大学院工学研究科の出水享氏(デミー博士)を迎えて座談会を企画。オープンナガサキの活用や可能性、測量の未来について語っていただいた。


―九州初の公開、大規模災害に対する体制づくりとして―


 中村課長 公開に至った理由は、令和2年に静岡県がVIRTUALSHIZUOKA(バーチャルしずおか)として3次元点群データを公表。このオープンデータにより、令和3年7月に発生した熱海市伊豆山土石流災害では、これまででは考えられないほど迅速に被災状況および被災原因となった盛土の把握を行うことができた。このような大規模な災害に対して官民が連携して迅速に対応できる体制づくりの一環として、九州では長崎県が先駆けて3次元点群データの公開に至った。このほか、現在では静岡県、広島県、兵庫県、東京都が公開中。


 オープンナガサキ公開後、4月末時点で7900回を超えるアクセスがあり、ダウンロード状況は3714GB(1700図郭以上)に上る。併せて、任意のアンケートも実施し56件の回答をいただいた。主な使用用途としては、道路設計資料やBIM/CIM対応、斜面災害等の解析に使う予定という意見が見られた。また、今後のオープンナガサキに期待する声として、公開範囲の拡大を求めるものや構造物(橋梁・ダム等)の精密なデータを求めるものが多くあった。


 デミー博士 今回初めてオープンナガサキを見させていただいた。公開されているのは何図郭ぐらいで、また、ダウンロードするために登録または使用目的の申請等は必要なのか。


 中村課長 現在は、長崎市・長与町・時津町の長崎地区878図郭を公開。ダウンロードに関して登録や申請等は不要で、誰もが自由に・簡単にダウンロードできるものとなっている。


 安部会長 弊社においても社員が簡単にダウンロードできた。ただ、現在公開されているものはLAS形式の点群データということで、専門的なフリーソフトを要する。各自でフリーソフトの準備が必要となるため、今後、活用を広く呼び掛ける際には、推奨するフリーソフトやフィッシングサイト等への注意喚起があると、安心して誰もが自由に使うことができるだろう。


 中村課長 ありがとうございます。そういったご意見はとても貴重なもの。今後の展開を検討していく中で参考とさせていただきたい。


―上半期中に県全域を公開予定―


 中村課長 公開した点群データは元々、県農林部が森林資源の管理用として航空レーザー測量等により取得したもの。取得時期は2012年~20年で、主に1平方㍍を10点もしくは4点で採取している。今後は、民間の皆さんに活用していただき、より詳細に測量したものなどを活用させていただきながらデータを更新していく予定である。まずは、多くの人に使っていただき、どのような使い方ができるのかご提案・アイデアをいただきたい。


 デミー博士 今までにないものを発信したことはすごいこと。これから使う人によって可能性は無限に広がっていくものだと思う。それがオープンデータの魅力であり、公開から約2カ月でこれだけ多くのダウンロード数があることが注目されている証ですね。県内全区域の公開はいつごろでしょうか。


 中村課長 サーバーやデータ量の課題を解決しながらだが、今年度の上半期中には県内全域8098図郭を順次公開していきたい。先ほど静岡県の災害事例を挙げたが、県内においても令和2年7月に主要地方道平戸生月線において、斜面の大規模な崩壊が発生した。1平方㍍4点から10点ということで詳細な点群データとは言いづらいが、被災箇所の把握や被災前・被災後の地形の比較、応急復旧の方向性、簡易査定などの場面で十分に力を発揮すると考えている。


 安部会長 現在の測量機器の進化はすさまじく、高密度航空レーザー測量だと1平方㍍あたり約30点で測量できるものもある。機器も測量技術もレベルアップしているため、より詳細なものに塗り替えていくことができる。測量設計コンサルタンツ協会では、国や県に準じて、3次元データを優先した講習会を開き県内企業の技術力の底上げを図っている。測量機器の進化・普及に併せて、我々技術者もレベルアップしていかなければならない。


 中村課長 県においても、国の補助金・各種施策等の情報をいち早く協会や関連団体の皆さんにお届けしたい。


―オープンナガサキ活用によるこれからの長崎―


 中村課長 私は元々道路の出身なので、建設業においても地元説明会で効果を発揮すると考えている。地域の皆さんへ立体的に色付けして車を走らせたデータを見ていただくことで、図面を見るよりはるかに分かりやすく理解できるものとなるだろう。


 デミー博士 分かりやすいということは、学校教育の中にも上手く取り入れてほしいですね。僕自身、デミー博士としていろんなイベントを通して子ども達に土木の魅力を発信している。その中で、ドローンやDXについて話すと、子ども達の目の輝きが変わるんですよ。若い人達にとって3次元などの最新技術はとても興味を持つものだと実感した。これらを上手く活用して、測量の魅力や土木の大切さを皆さんと一緒にPRしていきたい。


 安部会長 実際にインターンシップなどを通して、最新技術を使った業務に興味を持つ学生もいる。測量の仕事というのは正確性が求められ、なおかつ、その成果品をどのように活用するかも重要になってくる。このオープンナガサキを通して、測量の魅力や仕事内容をより正確に伝えることができると期待している。協会では高校生に対して毎年出前講座を行っており、昨年からはドローンを使った講義を実施。今後は次のステージとして、このようなデータの活用も考えていかなければいけませんね。


 中村課長 ドローンを使った講義はいい取り組みですね。ドローンについては、昨年の法改正やライセンス制度創設など、学校側が対応し整備することが難しい。様々な課題を踏まえて、県内の建設業の皆さんと検討させていただきたい。長崎の未来を担う若者のために、地域の学生は地域で育てていくという思いを持って、建設業全体で取り組んでいきましょう。「長崎でも最先端技術を使った仕事ができる」と思ってもらうために。


 デミー博士 オープンナガサキも盛り上げていきましょう。測量の仕事について理解できるし、その仕事がどのように未来につながっていくのか分かりやすいじゃないですか。オープンナガサキを活用した方々に呼び掛けてコンテストを開催してみては?産学官に限らず、年齢・職業・分野を問わずいろんな使い方を見てみたい。データの中でなら街に怪獣を置いても、どんなに奇抜な道路を作ってもいいじゃないですか。


 中村課長安部会長 おお!いいですね。


 中村課長 例えば、こちらが6図郭を指定して、その中で自由に作品を作ってもらいたいですね。現実にできる・できないは別として、新たな長崎の魅力やまちづくりの発想を見つけることができるかもしれない。いろんな賞も作って盛り上げていきたい。併せて、意見や要望をいただくことで、より使いやすいオープンナガサキにしていくことも可能だ。


―最後に座談会の感想を―


 デミー博士 皆さんとお話しする中で、オープンナガサキの未来、長崎の防災・まちづくりの未来を実感できた。また、教育の面においても十分に活用できる可能性を感じた。データをまずオープンにしたということがとても価値があり、今後、使う人によってその価値がさらに高まっていくと期待している。


 中村課長 まずは、土木の中で上手く活用しながら、行政・業界の省力化や生産性の向上につなげていく。その中で、皆さんからアイデアをいただきながら、より一層の長崎県の発展を目指す。まだスタートしたばかり。これから様々な分野の意見を取り入れてチャレンジしていきたい。


 安部会長 このようなビッグデータが公開されたということは、我々の技術も次の段階にいかなければならない。データがあるからこそ我々の業務が拡大していく、業界の未来につながるという考えを強く再認識した。オープンナガサキを活用させていただきながら、協会でもさらなる経営基盤の強化や技術力研鑽に取り組んでいく。


※測量の日

 1949年6月3日に測量法が公布されたことが由来。測量法が制定されてから40年が経過したことを記念し、1989年に国土交通省が毎年この日を測量の日と制定した。


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