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長崎労働基準監督署中里晋署長インタビュー /きょう7月1日から全国安全週間 /労働災害減少へ墜落・転落防止等に重点

2023年07月01日(土)

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【建設業】令和4年労働災害発生状況(休業4日以上)

 

 1カ月の準備期間を経て、本年で第96回目を迎える「全国安全週間」が、きょう7月1日から7日までの期間で始まる。今回のスローガンは『高める意識と安全行動 築こうみんなのゼロ災職場』―。今年は第14次労働災害防止計画の初年。「人命尊重」という崇高な基本理念のもと、いかに労働災害件数を減少させていくかが重要な課題だ。今年4月に着任、長崎労働基準監督署全体の指揮を執る中里晋署長に、重点課題のほか災害ゼロに向けて心掛けるべき点などを尋ねた。

―長崎労働基準監督署の重点課題について教えてください。


 重点課題として①中小企業を中心とする改正労基法等の周知徹底・支援②長時間労働の抑制および過重労働による健康障害防止を徹底③管内の労働災害の発生状況に応じた監督指導の徹底による労働災害の防止④労災給付の迅速適正処理―といった四つが挙げられる。いずれも監督(方面)、安全衛生、労災の各部署が連携して取り組むべき課題だ。


―長崎署管内における災害発生状況や事故の型別は。


 2022年における建設業のコロナ関連を除く休業4日以上の死傷災害は業種別では4番目に多く、72人、全体比11%、昨年比マイナス9人、11・1%減少した。事故の型別ではやはり「墜落・転落」災害が31人と最も多く全体の4割を占めており、起因物は「はしご等」が4割を占めている。脚立・はしごからの墜落・転落災害が増加傾向にあるので、同種災害防止のため、脚立やはしごの使用前に床面の広い移動式足場や可搬式作業台、手すり付き脚立等の使用の検討をお願いしたい。


 本年5月末現在の長崎署管内の建設業の休業4日以上の死傷災害は28人(プラス10人、55・6%増)と昨年同時期比で大幅に増加。半数の14人の事故の型は「墜落・転落」だ。


 「墜落・転落」災害を防止するためには、手すり・囲い・覆いなどの墜落防止措置を講じることが第一。その措置が取られた上での保護帽の着用、フルハーネス型などの墜落制止用器具の使用であることを忘れないでほしい。


―災害ゼロに向け最も心掛けるべき点とは、どのようなことですか。


 各企業の経営トップが安全衛生方針を明確にし、それぞれの企業の実態に即した安全衛生計画を策定し、実効ある安全衛生活動を積極的に推進していただきたい。


 建設工事現場においては、多数の下請請負人が混在して作業を行う。元方事業者がしっかりと統括安全衛生管理を実施し、関係下請請負人に対する指導・教育を適切に行い、優秀な職長や安全衛生責任者を育て、現場全体で労働防止に取り組むことが大切と考える。


 また、重篤度の高い労働災害となる「墜落・転落」「建設機械・クレーン等災害」「斜面崩壊災害」「熱中症」の防止に力点を置いた対策をお願いする。


 なお、建設業の労働災害においては、年齢別でも「60歳以上」が全体の3割を占めていることから、エイジフレンドリーガイドラインを参考に現場管理等で貴重な人材である高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境づくりや労働災害防止のための健康づくりの取り組みをお願いしたい。


 建設業では一人親方等の個人事業主の業務中の災害も多く発生している。労働安全衛生規則等の改正で、本年4月1日から、作業員を請け負わせる一人親方等や、同じ場所で作業を行う労働者以外の人に対しても、労働者と同等の保護が図られるよう、新たに一定の措置を実施することが事業者に義務付けられている。


―これから本格的な暑さとなり、熱中症が心配されますが。


 梅雨入りし、蒸し暑い季節を迎えます。


 5月29日厚生労働省発表の「令和4年職場における熱中症の発生状況(確定値)等について」によれば、2022年の熱中症による死亡災害および休業4日以上の業務上疾病者の数は827人で、うち死亡者は30人。死亡者30人のうち建設業が14人と最も多く、ほぼ半数を占めた。建設工事現場の警備業にかかるものが5人となっていることにも注意が必要だ。


 多くの事例で暑さ指数(WBGT)を把握せず、熱中症予防のための労働衛生教育を行っていなかった。7月は「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」の重点取組期間。暑さ指数に応じた対策を徹底してほしい。


―最後に、建設業に携わる方々に一言お願いします。


 2024年4月1日から時間外労働(残業)の上限規制が建設業にも適用される。速やかに体制整備を行ってほしい。


 建設業のみならずあらゆる産業で人手不足が問題だ。併せて高齢化の問題もある。


 今までは災害防止という安全面の取り組みが中心だったと思うが、若い優秀な人材確保のためにも、各企業の技術の次世代への継承を進めるためにも、労務面での労働条件の整備にも力を入れて、安全で快適、安心して働くことができる魅力ある職場づくりをお願いしたい。


=プロフィール=中里晋(なかざと・すすむ)

  • 1963年、長崎市に生まれる。1992年に労働基準監督官として旧労働省に採用。初任地は広島。その後、佐賀での勤務を経て、1999年から長崎労働局管内で勤務。江迎署長、島原署長、労働基準部健康安全課長、長崎労働局監督課長を歴任。本年4月から現職。

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