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【インタビュー】県・中尾吉宏土木部長 /土木施設を活かし地域の「回遊性」や「賑わい」向上

「千載一遇のチャンス」-幅広い関係者のアイデアで〝面白い〟地域づくりを

2023年08月22日(火)

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人物

 

県庁屋上からスタジアムシティプロジェクト方面を望む

長崎県建設業就職ポータルサイトのバナー

 国土交通省の仙台河川国道事務所長に続き、県土木部長のバトンを、前任の奥田秀樹氏から受け取り、7月5日付で就任した中尾吉宏氏。初めて暮らす長崎の地で、何を感じ、どのような取り組みを進めようとしているのか―話を聞いた。


まずは就任の抱負を


 長崎に来て印象的だったのは、平坦な場所がとても少ないこと。皆さんにとっては普通のことかもしれないが、県外から来た身からすると、ものすごい特徴。悪いことではなく、この特徴を〝トガらせる〟ことで面白い地域づくりができればと思っている。


具体的な考えはあるのか


 長崎市の中心部だけ見ても、スタジアムシティプロジェクトや、西九州新幹線が開業した駅周辺地区、松が枝埠頭の2バース化、元船地区のみなとまちづくりなど、魅力的な取組があるが、これらが個々で完結するのではなく、回遊したくなる要素を付加し、楽しめる空間づくりを進めたい。その〝キモ〟となるのが、県庁周辺の広い歩道や旭大橋の高架下など。公共施設を管理する立場として、それらを工夫して活用することで、賑わいを創出したい。


 この思いは、仙台河川国道事務所長当時に『閖上地区かわまちづくり』(2021年度かわまち大賞受賞)に携わった事が大きい。河川管理者として、川沿いの管理用通路(散策路)や親水護岸(テラス)・広場の整備などを進めた。これが、河川堤防の側帯にまちづくり会社が建設した商業施設(かわまちてらす閖上)はじめ、舟運事業や河川防災ステーション、震災復興伝承館などとともに、河川沿いの回遊性を高め、賑わいの創出につながったと思っている。さらに、港朝市や温泉など、周辺の観光施設との相乗効果で、より大きな回遊性も生み出した。


 現在の長崎市は、このような取り組みの千載一遇のチャンス。県だけではできないので、幅広い関係者の方々と話し合い、アイデアをいただきながら、仲間を増やしていきたい。そして、この成果を県内各地に広げたい。


次に国土強靱化はじめ、中長期的な事業の展望を


 平坦地が少なく傾斜地が多い長崎は、魅力的な一方で、土砂災害警戒区域が全国で2番目に多く、台風などによる浸水被害も多く発生。高規格道路の整備もまだまだで、ダブルネットワークができていないなど、多くの課題があることも事実。国土強靱化5か年加速化対策予算は、2022年度の補正で約216億円、23年度当初予算は前年度比6%増の約471億円もの配分を得た。5か年加速化対策後の道筋も見えてきそうなので、今後も知事を先頭に、地域の関係者の皆さんにも声を上げていただきながら、予算をしっかり確保し、流域治水や斜面対策、道路ネットワークの機能強化などに取り組んでいく。


 高規格道路の整備は、物流効率化や交流人口の拡大、災害時の対応といった一般的に言われる効果に加え、通過交通を分担させることで、地域内道路の交通量を減らせ、市町の渋滞対策・安全対策・活性化に繋がる面でも非常に重要。整備の要望に当たっては、単にお願いするのではなく、〝地域がどのように高規格道路を活用したいと考えているのか〟具体的な絵を示し、地域の生の声も届けて、整備の実現につなげたい。


建設業では、担い手確保や働き方改革が大きな課題になっている


 県内高校・大学卒業生(22年3月卒)の建設業就職者のうち、県内就職の割合は65%を占めているが、3年以内の離職率が46%(19年3月卒)もいる。この状況の改善に向け、工業高校生を中心に、将来の働く姿を想像できる現場見学会や卒業生による講和の実施に加え、昨年度に『長崎県建設業就職ポータルサイト』を開設した。


 建設業に就職する人を増やすとともに、長く働いてもらえるよう、建設業の働き方改革を進めることも大切。公共事業での週休二日を今まで以上に積極的に取り入れ、民間工事での取り組みにもつなげていければと考えている。


 罰則付きの時間外労働規制の適用も目前に迫る中、生産性と労働環境を向上するためには、ドローンによる測量や自動制御された建設機械の活用など、ICT技術の導入が不可欠。その円滑な取り組みを後押しできるよう、現在、産学官で連携し、県内建設業のICT/DX導入事例集の作成を検討しているところだ。


最後に県内の建設業界へメッセージを


 私は〝人それぞれ得意・不得意があるのは当たり前で、相手ができない部分を責め合うのではなく、お互いを活かし合う方が生産的で過ごし易い〟と思っている。この考えを、県庁内の業務だけでなく、建設生産システムに係わるさまざまな立場の方々(発注者、設計者、施工者、メーカー等)との間でも進めたい。それぞれの立場で、考えや思いは違うが、コミュニケーションを図りながら、お互い気持ち良く仕事をできるようにしていきたい。


中尾吉宏(なかお・よしひろ)

  • 1972年3月17日愛知県生まれ。97年3月 早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。同年4月 建設省入省。国土技術政策総合研究所やインドネシア共和国(ジャカルタ)派遣、国土交通省道路局高速道路課長補佐などを経て、2018年 宮崎県県土整備部高速道対策局長、20年 東北地方整備局仙台河川国道事務所長、22年 国土技術政策総合研究所道路構造物研究部道路地震防災研究室長、23年7月から現職。17年策定の『道路橋示方書』の執筆者にも名を連ねる。奥さんと小学4年生の息子さんを名古屋に残し単身赴任中だが、現在、夏休みで二人が来崎中。「私が仕事をしている間に長崎を満喫し、お気に入りの場所を教えてくれる。息子のお気に入りは角煮まんと路面電車」と喜ぶ。高校まで卓球に励み、中学時代は愛知県代表で東海選手権大会に出場した。趣味はトライアスロン。「股関節周りの筋肉を傷めてしばらく走っておらず、通常より4㌔太っている」が、来年以降、県内のトライアスロン大会への出場をもくろんでいる。

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