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【建設DX企画】迫る時間外労働の上限規制適用 /DXによる建設分野の業務効率化を見る

2024年01月04日(木)

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その他

長崎県:建設企画課企画監・田崎智

長崎県:リモート査定

長崎県:三次元モデル勉強会

佐賀県:建設・技術課長・野口欣也

佐賀県:CIM講習会写真

 建設業への時間外労働の上限規制適用が目前に迫っている。その適切な対応には、〝業務の効率化〟が重要な要素となる。また、業務プロセス全体で取り組むことで、この効果が一層強く発現されることになる。業務の効率化に向け、公共事業の発注者はどのような取り組みを進め、受注者にどのような対応を期待しているのか、現在、政府全体で取り組みを推進しているDX化(デジタルによる変革)の観点から、関係者に話を聞いた。各企業のDXによる取り組みの紹介はこちら



中小建設業のDX持続可能な環境整備に重要

長崎県建設企画課・田﨑智企画監


 土木行政の中でも、まだまだDXにより業務効率化が図れる部分は多いと感じている。


 発注業務では、三次元モデル作成などのこれまでにはなかった委託業務の実施件数が増えてきた。成果品である三次元モデルは、施工計画や施工の際の理解向上のみならず、住民への説明時にも効果を発揮する。これまでは二次元図面を用いて、発注者が説明し、各々の頭でイメージをしていたところを、三次元データにすることで明確に意思の統一ができる。


 一方、監督業務では、ウェブ会議システムの普及により、事務所と施工現場をつなぎ、遠隔臨場が可能となった。監督員の移動時間や施工業者の待ち時間を削減することができる。また、ウェブ会議を用いることで、電話で状況を説明してもらうより、現場状況がわかるため、現場に行くべきかどうかを監督員が判断しやすい。


 長崎県内の建設業者では、建設業協会が主導し、情報共有システムの活用を推奨しており、情報共有システムを活用していただくことで、発注者としても、資料のペーパーレスや効率的な工事の推進を図ることができる。


 今後も事業者の方には積極的に遠隔臨場や情報共有システムを活用していただきたいと思う。


 このようなシステムなどを利用し、長崎県ではデジタル技術を活用した災害査定を推進している。2023年度は、リモートによる災害査定や、ドローンやモバイル端末で計測した3次元点群データを活用した災害査定を受検している。


 職員の負担をいかに削減できるかを重視し、今後も業務のDX化に取り組んでいきたい。


 地域中小建設企業のDXは、今後の建設業の持続可能な環境を整備するために、非常に重要だと考えている。DXはひとつの機器導入で終わるものではなく、機器の導入に加えて、機器やソフトウェアを扱える人を育てないといけない。


 県としては、県内の建設企業へ普及可能なデジタル機器やソフトウェアを紹介し、先進的なDX手法を共有していきたい。24年度も、建設企業の経営者向けセミナーの実施や、デジタル機器を活用した勉強会などを実施していきたいと考えているため、事業者の方々に積極的な参加をお願いしたい。


効率化やイメージ向上で担い手の確保・育成を

佐賀県建設・技術課・野口欣也課長


 佐賀県内の建設投資額は近年、増加傾向にある中、県内建設業の就業者数は年々減少しており、建設DXの推進による生産性向上や働き方改革の促進により、担い手を確保・育成することが重要な課題となっている。


 このため、本県では、ICT活用工事を推進しており、土木工事では10工種で適用し、実施件数は年々増加している。2023年7月からは農業農村整備工事と森林整備工事でも適用を始めた。


 令和4~5年度には、県内の建設業者と建設コンサルタントを対象として、本県独自の「佐賀県建設DX加速化補助金」により、ICT建設機械や3次元測量機器の購入、技術者育成を図るための操作研修に対し補助を行い、建設DXに向けた建設業界の新たなチャレンジを支援した。


 今後のさらなる普及・拡大に向けて、適用工種や発注者指定型の拡大、工事成績評定の加点、現場研修など、ICT活用への意欲が高まるよう取り組んでいく。また、遠隔臨場や情報共有システム(ASP)の利用も推進しており、県発注機関のASP利用者数は全体の半数近くに増加している。引き続き、受発注者間の業務効率化に向けて普及を図る。


 このほか、土木・建築系の高校生を対象として、ICT施工体験やICT施工を含むPR動画を制作し、建設業が魅力ある産業であることを発信している。今後も、若い世代に建設DXといった建設業の最新デジタル技術を伝えることで、建設業の担い手確保につなげていく。


 今後は、BIM/CIMや3次元データ利活用の推進が重要となってくるため、あらゆる建設生産プロセスにおけるデータの3次元化を検討していきたい。建設業では、24年4月から時間外労働の上限規制が適用されることもあり、建設業の働き方改革は急務となっている。このため、今後とも、デジタル技術の活用による労働環境の改善を含め、建設業の効率化やイメージ向上を図り、担い手の確保・育成につながるよう、建設DXの一層の推進に取り組んでいく。


今が対処できるギリギリのタイミング
 老朽インフラの加速度的な増加を控え、国土交通省では、複数・広域・多分野のインフラを「群」として捉え、総合的・広域的視点から戦略的に管理する『地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)』を推進。併せて、新技術導入によるメンテナンス業務の効率化に向け、自治体に対する専門家のハンズオン支援も実施している。
 本年度は、群マネのモデル地域として11件40自治体、ハンズオン支援のモデル自治体として13団体を選定した。
 群マネを推進する国交省総合政策局公共事業企画調整課の金井仁志インフラ情報・環境企画調整官は、今後一層の高齢化が進む中、「今が対処できるギリギリのタイミング」と指摘。「目の前の業務で大変だと思うが、群マネの考え方や新技術(DX)の導入などの〝新たな取り組み〟に向け、できる部分から一歩踏み出してほしい」と話す。

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