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日本建設技術が藻場再生のミラクルソル着生基盤材 /初期の海藻発芽に有効

2024年01月04日(木)

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その他

H17.3観測(2年7ヶ月後)

小友漁港内設置位置

設置直後

3ヶ月後(フクロノリの着生

 日本建設技術㈱(本社・佐賀県唐津市北波多、原裕社長)は、建設廃材の板ガラスや容器包装の空き瓶、車のサイド・リアガラスなど、ガラス廃材をリサイクルした多目的環境材料「ミラクルソル」(発泡廃ガラス)を開発。廃棄物を建設分野で有効利用する「低炭素建設技術」として28工法(緑化、土木、水質浄化など)を提案している。今回は、藻場再生に向けたミラクルソルの着生基盤材の現地実験と実証実験の結果を紹介する。

【唐津市小友漁港で現地実験】

小型水棲動物の生息を促す


 海藻の着生基盤材としてのミラクルソルの有効性を確認するため、セメントボードにミラクルソルを接着した筒型供試体(FWG体①)、セメントボードを4枚組み合わせた筒型供試体(CB体)、U型ブロックにミラクルソルを接着した供試体(FWG体②)を製作し、佐賀県唐津市小友漁港内に設置した。


 FWG体①、CB体を設置(2002年8月)した場所は、既存する岩礁性海藻類(概ねホンダワラ類)が分布する潮間帯(平均水深1~2㍍程度)で、大潮干潮時では水深0㍍付近となる。FWG体②は、同漁港内の漸深帯(平均水深5~10㍍)に設置(同年12月)した。


 FWG体①、CB体については、ミラクルソルの有効性、FWG体②に関しては形状の有効性(蝟集性、隠れ場機能など)について検証するため、周辺種による供試体への付着速度と付着量を観察した。


 設置2カ月後の海藻の付着状況は、FWG体①の気孔に多数の幼芽が見られたが、CB体の方は何も見られなかった。設置4カ月後にはFWGに緑藻、褐藻類が増え、CB体に紅藻類が増えた。6カ月後、FWG体①に緑藻類の繁茂(1~2㌢)が目立ち始めているのに対し、CB体では紅藻類が衰退した。


 この傾向は、設置1年8カ月、2年7カ月後でも見られ、CB体には巻貝が付着していた。初期のCB体は、セメントボード表面からアルカリ分が溶出して発芽に影響を及ぼしたもので、3年ほど経過したCB体での藻類衰退は、発芽したばかりの幼芽を巻貝が摂餌しているものと考えられた。


 これに対し、FWG体①のFWG部分には緑藻類が見られ、貝類による摂餌の影響を受けていないのが分かった。また、観測期間を通じて海藻類の繁茂が著しいためか、小エビなどの水棲動物が多く生息していた。


 漸深帯に設置したFWG体②は5カ月後にはアラメの幼体、フクロノリ、アメフラシの卵などが着生していることが観測され、U型の形状をした内側には、光が届かないためか海藻類の着生は見られなかった。


 これらのことから、ミラクルソルを装着した基盤材は凹凸のないセメントボード基盤材よりも海藻類の着生が良く、それに伴い、小型水棲動物の生息を促すことが分かった。


【仮屋湾沖の蝦蟇瀬で実証実験】

アラメの着生が確認


 現地実験の成果をもとに試作した基盤材を佐賀県仮屋湾沖の蝦蟇瀬(わくどのせ)に設置(06年2月)。設置場所は以前海藻類が瀬全体に着生していたが、実験当時は瀬東側で海藻の局所的衰退(食害による可能性が高い)が見られた。


 試作した基盤材は、幅30㌢×長さ30㌢、厚さ2㌢のセメント盤に約φ50㍉のミラクルソル30~70㍉を約15個動かないように接着固定した。基盤材の特徴としては、1枚当たり3㌔㌘と軽量であるため、潜水士船による手作業での施工が可能であることなど。


 種苗無し基盤材の有効性の検証を行うため、そのままの製品を、水中ボンドで捨て石による藻場造成箇所に2㍍×2㍍の間隔で設置した。設置3カ月後(06年5月)にはフクロノリなどの着生が見られ、設置した基盤材のところどころにムラサキウニが確認された。設置15カ月後(07年5月)の基盤材には藻場を形成する主要海藻類の着生は少なかったが、アラメの着生が確認された。


【現地試験および実証試験の検証結果】

微生物、小動物の集積を確認


 ミラクルソルは表面が多孔質で凹凸形状となっているため、表面積が大きいことから初期の海藻の発芽に有効であり、凹部に入った幼芽の巻貝などからの食害を抑え、海藻の繁茂に効果があると考えられる。さらに、多孔質のミラクルソルは海藻胞子が着生しやすいだけでなく、沿岸生態系における浅海岩礁域の食物連鎖の底辺を構成する微生物、小動物などの集積がみられ、より活発な沿岸生態系を創出することが期待される。


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