【行政トップインタビュー】
本明川ダム工事事務所・森康成所長に聞く/市、地元地域、業者との協力体制が重要
2024年08月21日(水)
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長崎県内唯一の一級河川である本明川に、九州初の台形CSGダムとして、いよいよ本体工事に着手する本明川ダム。今年4月には、九州地方整備局本明川ダム工事事務所が開所した。その初代所長に就任し「このタイミングで業務に携われることを光栄に思っています」と語る森康成氏に、新事務所の役割や進捗状況、今後のスケジュールを聞いた。
「諫早にとって特別なダムに」
長崎県や本明川のある諫早の印象は
長崎への勤務は初めてで『長崎はダムの歴史がある』という印象です。1891年に完成した本河内高部ダムは、わが国初の近代水道ダムで、長崎を代表する近代土木遺産。この歴史あるダムを再開発し、まだ現役というのもすごい。長崎は古いダムの再開発だけでなく、地形的な特徴から規模の小さいダムが身近にたくさんあるので、ダム事業の歴史や技術などが、濃縮した県だと思っています。
また、サッカーやバスケットボールなどスポーツの盛んな県という印象もあり、本明川のある諫早市にも、内村記念アリーナや長崎県立総合運動公園などがありますね。諫早は、長崎の重要な交通の要衝で、半導体企業の工場拡張や九州最大級の大型ショッピングセンターの着工など、元気な街という印象です。
この街を水害から守るため、本明川ダムは治水としてのダム機能をしっかりと発揮できるようにしなければならない。そして、完成後はもちろん工事中も観光の拠点となり、本明川ダムが、諫早にとって特別なものになってほしいと願っています。
本明川ダム事務所の役割について
本年度の当事務所の目標は大きく2つあります。一つは本体工事に先立ち、付替道路、工事用道路を開通させること。もう一つは、ダム本体の(完成後だけでなく本体建設中も)インフラツアーなどをはじめとするダム周辺地域を活性化するための体制づくりです。
本体工事の着工となれば、これまで以上に施工業者との綿密な調整を行わねばなりません。また工事に伴う騒音や振動などの影響を回避するため、地元の方々とのより密接な調整が必要となります。加えて諫早市との調整など、これらを機動的に進められるよう、この事務所が開設されたのだと理解しています。
事務所の業務内容と今後のスケジュールを教えてください
諫早は有明海、大村湾、橘湾に囲まれ南からの湿った空気が多良山系ぶつかると大雨が降りやすい。その上で、本明川は、河川水が上流の急流部から一気に流れて、緩やかな下流側へ続くのが特徴で、その変化点に諫早市街地が形成されているため、洪水が起きやすい。本明川の下流では、長崎河川国道事務所が河川改修を進めていますが、本明川ダムにより、諫早大水害と同規模の洪水を調節することができる。本明川の治水の要が本明川ダムと思っています。しっかりと効果を発現できるよう一日でも早い完成を目指します。
具体的な業務内容を見ると、これまではダム本体の設計と積算、ダムによる水没エリア内にある道路を付け替える工事が進められてきました。付替県道は2023年3月に供用済みで、付替市道や工事用道路も本年度中に開通予定です。その後、本体工事を進め、30年の完成を目指します。事業自体は、試験湛水を経て、32年の完了を目指しています。
当事務所では、これら工事監督と地元との調整、関係機関との調整を実施。さらにダム建設に伴う環境への影響、景観の検討を進めます。
工事中の現場見学やインフラツアーなどにも積極的に取り組んでいきます。ダム完成後の水源地の活性化の体制づくりなども進め、ダムの魅力だけでなく土木の魅力も多くの人たちに発信できればと思っています。
事務所として若手の育成をどのように進めようとしているのでしょうか
当事務所は多くの若い職員がいます。彼らには、基本的な土木技術はもちろん、施工業者や設計コンサルの方々との協議の中でさらに深い技術を学んでほしいです。また、地元調整を担当してもらっているので、その中で、調整力や対話力、全体を俯瞰的に見た上でのマネジメント力を、身につけてもらいたい。そういった場をつくるのが我々の役目だと考えています。
本明川ダムは、地元業者の若い技術者や技能者の方々はもちろんのこと、当事務所の若手職員にとっても、貴重なフィールドになっていると感じています。