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【インタビュー】長崎県土木部長 山内洋志氏/離島・半島のインフラに向き合う/地域の実情・声を中央へ

2025年09月17日(水)

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人物

山内部長

整備が進む高規格道路(島原道路 出平有明バイパス)2

 7月10日に長崎県土木部長に就任した山内洋志氏。国土交通省を中心に国のさまざまな機関で経験を積んできたが、地方行政、さらには長崎での勤務は初めてだという。担い手不足やインフラの老朽化、災害の激甚化・頻発化など、多くの課題に直面する中、初めて訪れ、ふれ合った長崎の土地と人々に何を感じ、どのような取組を進めていこうとしているのか、話を聞いた。


■まずは就任の抱負を聞かせてほしい

 「長崎での勤務、さらに、県庁はもちろん地方自治体での勤務も初めて。分からないこともあると思うので、できるだけ多くの現場を訪れ、さまざまな方々と話をしながら業務を進めていきたい。就任早々、多くの首長・議員の方々と話をする機会を得たが、地域のインフラ整備に対する皆さんの思いの強さに驚き、頼もしさを感じた。激甚化・頻発化している災害にしっかり対応していくこと、そして、これらの地域の声をしっかり中央に伝えていくことが、土木部長としての役割だと思い、職務に当たっていく」

■長崎の印象と、それを踏まえた取組の方向は

 「これほど離島・半島が多い地域は他にない。私の専門分野である河川については、日本の特徴である〝急峻で短い〟をさらに極端にしたのが長崎。県管理の治水ダムが全国で最も多いのも特徴で、治水や管理の面で県が担う役割は非常に大きいと感じている。防災面では、これらの地形的な特色を意識し、能登半島地震での教訓などを学びながら、しっかり取り組んでいく」
 「観光面では、魅力ある資源が多数点在しているが、必ずしも有機的に繋がっていない印象だ。高規格道路や港湾などによる交通ネットワークの整備や、老朽化対策を含めた地域の道路整備を通じて、暮らしやすく、訪れやすい環境づくりを進めていきたい」

■予算の確保と国土強靱化に向けた考えは

 「西九州新幹線が開業し、各地でまちづくりが進んでいるだけでなく、これほど多くの高規格道路の事業が動いている県も珍しい。さらに、離島も含め県内各地に非常に多くのインフラが点在。しかも、県管理橋梁の6割が10年後に架設後50年以上を経過するなど、深刻な老朽化問題も抱えている」
 「コアとなる新設インフラの着実な整備だけでなく、既存インフラの維持管理や老朽化対策も進めなければならず、必要な予算の獲得が大変重要となっている。このような中、国により『第1次国土強靱化実施中期計画』が策定されたことは、本県にとって大変ありがたい。5か年加速化対策終了後も切れ目なく取組を推進するため、実施中期計画の実現に必要な予算・財源の早期確保と、資材価格・人件費の高騰などの適切な反映を、県内の各関係者とともに政府・本県選出国会議員・国土交通省など関係機関に積極的に要望していく」

■すべての業種が直面している担い手の確保について、長崎の建設業界としてどのように対応すべきか

 「県内の建設業は、50歳以上の就業者が5割超、29歳以下の若年層は約1割と、他産業と比べ高齢化が進行し、将来の見通しとしても非常に厳しい状況にある。他の業界の真似ではなく、建設業の実情や地域特性を踏まえた取組に向け、関係者と十分に意見交換をしていきたい」
 「まず大切なのは、今働いている方々が安心して働き続けられるようにすること。適正な価格での発注と、技術力で競い合える環境を整備すれば『これからもこの業界で働いていきたい』と思ってもらえるはずだ。若い世代に対しては、現場見学会や学校関係者との意見交換などを通じて、やりがいや意義を感じてもらうなど、建設業の魅力を発信していく」
 「せっかく就職しても3年以内に辞めてしまう若者が多い状況への対応策としては、少人数で効率的に仕事を進めることや、働き方改革に積極的に取り組むなど、前向きな企業の事例をしっかりと伝えていきたい。県としても、職場環境の改善やIT化の推進など、魅力ある職場づくりを支援していく」
 「昨年12月に策定した『インフラDXアクションプラン』に基づき、職場環境・労働環境の改善に向けて官民一体となって取り組んでいく。女性や若者が活躍しやすい環境づくりにも一層力を入れていきたい」

■県内建設業界に対するメッセージを

 「長崎は、土砂災害警戒区域の数が広島に次いで2番目に多いことを着任して知った。中国地方整備局に勤務していた当時、西日本豪雨により岡山県と広島県で大きな災害が同時に発生する状況に直面した。その際に助けていただいたのは、地元の建設業者。特に、岡山県倉敷市真備町では、自らも被災しながら、いち早く小田川の復旧に駆け付けていただいた。初動対応を行い、地域を守ってくれるのは地元の業者だけだと痛感した」
 「土砂災害対策だけでなく、長崎のインフラ整備はまだまだこれから。地域の建設業に従事する方々が安心して働き続けられる持続可能な環境づくりに向けて、皆さんの意見をしっかり聞くなど、日頃から連携強化しながら取組を進めていくのでよろしくお願いします」

 やまうち・ひろし
 東京都八王子市出身、51歳。1999年3月 東京大学大学院修了(土木工学科)、同年4月建設省入省。2006年4月国土交通省九州地方整備局佐賀河川総合開発工事事務所調査設計課長、同局企画部企画課長補佐、企画課長を歴任し、09年4月に国土交通本省総合政策局総務課国際協力官。その後、環境省や北海道開発局、中国地方整備局勤務を経て、20年7月(独法)国際協力機構地球環境部参事役、22年4月(独法)水資源機構本社経営企画部企画課長、23年4月国交省水管理・国土保全局水資源部水資源計画課総合水資源管理戦略室長、25年4月国交省大臣官房付を経て現職。
 東京に妻を置いての単身赴任。趣味は旅行。妻と二人で国内各地を「食べ飲み歩いてきた」が、九州を訪れたことは少ない。以前から、妻と「行きたいねと何度も話していた」五島はもちろん、県内各地をプライベートで訪れるのが楽しみ。
 旅先では妻と『ダムカード』も収集。初めて所長を任され(北海道開発局幾春別川ダム建設事業所長)嵩上げ工事に携わった桂沢ダムのカードをもらいに10年ぶりに訪れた際には「所長当時に完成を見届けられなかったので感慨深かった」。県内で嵩上げ事業が進む浦上ダムも、思い入れのあるダムに加わりそうだ。

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2025年9月16日更新


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